【Ⅰ】
遠くの空に、鐘が鳴る。耳を澄まし仰いだ先には、細く立ちのぼる煙が見えた…
遠くの空に、鐘が鳴る。耳を澄まし仰いだ先には、細く立ちのぼる煙が見えた…
「――…さま、火影様!」控えめだけれど確かな声で、突然揺り起こされた。見慣れない部屋に一瞬、どこにいるのかわからなくなる。「ご用意ができましたが――もしやどこかお加減がすぐれませんか?」覗き込まれる顔にも、あまり見覚えが…
――触れるのならば、『お前の』手で。抑えきれない興奮に、つい利き手である義手の方を伸ばしてしまう度、サスケは必ずそう言ってオレを制した。ずらした下穿きから覗く、黒々とした茂み。触れたときにはもう芯を持ち始めていた性器は、…
「……について、……が…………という報告を」「いや、……が……しても、きっと…………なら」 気がつけば、会議室の中にいた。あの日から、ずっとこうだ。動きと動きの間が、全然繋がらない。頭が時々、完全に止まってしまうようだっ…
「……へ?」考えてもみなかったその言葉に、思わず目が大きくなった。え、うそ。なにお前そんな事してくれんの? ドギマギ確かめるオレに、黒髪の頭がかすかに頷く。「まあな。ちゃんとお前がやるべき事を、果たしたら」あんまりにもオ…
久しぶりに来た温室は、変わらぬ佇まいでそこに在った。日が落ちてからのそこは、静かで冷たい。今が真冬であるならば尚更だ。備え付けられた明かりをつければ、闇の中でぽっかりとその姿は際立っているはずだった。今はもう、ここに目眩…
到着してみるとそれは思っていたよりも高級そうなダイニングバーで、散々迷った末仕事用ではあるが一応手持ちの中では一番小洒落ていると思われるスーツを選んできたオレは、開いたドアを後ろ手で閉じつつ密かに安堵していた。明るいけれ…
なんでオレがそんな事。アッサリ下された結論に、オレは即座にそう思った。だってナルトだぞ?あのナルトだぞ?あいつから言われて付き合うのは考えていたが、逆はこの12年間想像した事さえなかった。オレの事を好きで好きで堪らないあ…
派手な一本締めの余韻もそのままに表に出ると、ちらついていた雪は早くも止んでいて、代わりに切れ切れとなった雲の合間から明るい夜空が顔を覗かせ始めていた。ストールやマフラーで包まれている顔は、どれも皆楽しげに赤い。わあ、やっ…
返されたメールにあった宿は同窓会の会場から程好く離れた場所にあるシティホテルで、経営元が空港会社ゆえか、宿泊している客層もどうやら外国からの客人が多いようだった。落ち着いたクラシック音楽が流れる一階ラウンジでは、そんな人…
「……ナ、ナルト……?」笑顔から伝わる異変に、オレの舌はもつれた。ゆっくりと近付いてくる体が大きい。表情や声色は穏やかなままだけれど、先程までと比べ漂っているものが明らかに違った。伝わってくるのは切迫した、威圧とでもいう…
「――で、さァ! まあやっぱそうなってくりゃオレも我慢出来ねえじゃん? たまらずカーシート倒して、そのぴらぴらのスカートを捲り上げたワケよ!」忘れもしない、十七歳の夏。あの頃けばけばしい音楽に合わせ語られるのは、大概が下…
同窓会、その後のお話。
けどやっぱどう考えても、最初はオレ別に悪くないよな。 あれから時間はずいぶん経ったけど、何度思い返してみても、オレは同じ結論に至るのだった。時期は六月、任務のため訪れていた里外れの田舎町。当時依頼主である町から仰せつかっ…
「……ってことがあったんだけど」覚えてる? と問われ、唖然とした。乳白色の電灯の下、そっと傾げられた金髪は、昔よりほんの少し短い。背景にあるのは話の中にあった薄暗い民宿の掠れた襖ではなく、もう完全に見慣れたものになった自…
やはりすっかりまわってしまったのだろう。元の姿に戻っても、サスケのほてりは一向に引かないようだった。そのままソファでぐったりしてしまった彼に、寝室から毛布を一枚取ってくる。熱いのだからこのまま冷ました方がいいのだろうかと…
オマエのクナイ捌きって、やっぱキレイだよな。 いい目の保養になったってばよ。 後ろからのんびりした様子で投げられた声に、たっぷり一日かけて埃を被ったサンダルをふと止めて振り返る。 歩く時の癖なのだろう、組んだ両手を後ろ頭…
トッ・トッ・トッ・トッ・トッ! どこからともなく、小気味よい音と共に術式の書かれたクナイが飛ばされ地面に突き刺さる。 「っしゃ~~~いくぜ!!」 演習場の傍の木陰でナルトは1人気合を入れると、いつもより丁寧に印を結んだ。…
もう何度目かもわからなくなった溜息をついて、ナルトは眼下に広がる里を眺めた。 暖房のない待機所は、冷たい外気を纏ったままの木の葉の忍達がひっきりなしに出入りするためか、外と変わらない程冷えている。 ぐるりと一面を囲ってい…
なんだ、片付いてるじゃねえか。 やっと見つけた鍵で開けたドアの中を覗いて、サスケは小綺麗に整えられた部屋に意表を突かれた。ナルトの性格だったらきっと賑やかに散らかった部屋だろうと想像していたのに。そういえばここに入るのは…
大量の書物を乗せた背負子の肩当ては、階段を上がる度に重さを増し容赦なく肩に食い込んでいくようだった。 目的地の最上段まであともう少し。さすがにあがってきた息を軽く整え、ナルトは肩紐をぐいと引き上げる。 昨夜の雪は、この山…
きっと先に帰られてしまうのを危惧して走って来たのだろう。 息を整えながら近付いてきたナルトと視線を合わせないよう注意しながら、サスケは巻かれた包帯に目を落とした。今更ながら、サクラの企てにまんまとのせられた事を苦々しく思…
むかしむかし。 木の葉茂る山、沢を登り崖を乗り越えまだいったその奥に、ナルトという親のない、一匹の狐がおりました。 ふさふさした尻尾は秋の稲穂のような黄金色、つんと尖った耳を持つ狐です。 その狐は親はなくともたいそう元気…
――― お い で 。 まさしく時が止まったようだった。ゆっくりと、緋の唇が動く。そうして差し伸ばされてきた白い手は、その表面のなめらかさから細らんだ爪先の丸みに至るまで、やはり全てが作り物じみた完璧さだった。危うさを感…
ぐう。組んだ手のひらの下で、腹の虫が鳴いた。ぐぅ、きゅう。言い足りないとでもいうかのように、切なげな訴えはまだ続く。長く仰向けになったまま見上げた壕の天井に、その声は甲斐なく染み込んだ。 「――…っとに、お前ら元気だなあ…