Strawberry on the Shortcake 1

指定された時間よりもかなり早くに訪れたそのコンビニは、深々と冷えていく夜の街の中、くっきりとした明るさで建っていた。たっぷり巻いたマフラーに顎を埋め、自動ドアの前に立つ。扉が開くと同時に、中からは気の早いクリスマスソング…

Strawberry on the Shortcake 2

タクシーから降りて眺めるプラタナスの並木通りは、この数日ですっかり馴染んだ道となった。 はらはらと渇いて落ちる、広げた手のひらのような大きな葉を靴先で散らす。 なんとなく横付けするのが後ろめたくて、店の建つ大通りの端で車…

Strawberry on the Shortcake 3

大企業『うちは製鐵』が破綻するきっかけになったのは、古くから親交の深かった同郷の会社が不況の最中、他企業に買収されそうになったところを救うべく、手を差し伸べた事が端を発しているのだという。 「ホワイトナイトを買って出たの…

Strawberry on the Shortcake 4

言い訳のように聞こえるかもしれないが、オレとて最初からここに来ようとしていたワケではないのだ。自宅マンションの周りには三軒ものコンビニが看板を掲げていて、その全てが歩いて行ける範囲内にあった。その中には、ヤツのいるあの店…

Strawberry on the Shortcake 5

「――行くぞ」 掛けられた不機嫌そうな声に、オレは寄りかかっていた店の壁から身を起こした。午前4時、真冬の夜はまだまだ暗い。身を起こした瞬間に出された少し深い息が、白く煙って闇に溶けた。裏口から入ってきた店長と入れ替わり…

Strawberry on the Shortcake 6

早朝のダイニングルームにいるオレの存在は、二階から降りてきた彼等を相当驚かせたらしかった。 特にそれが顕著だったのが、短髪の方の人だ。黒々と大きく見張られた瞳は文字通り完全にまばたきを忘れ、閉じられないらしい唇はアワアワ…