≪2≫

「……ってことがあったんだけど」
覚えてる? と問われ、唖然とした。
乳白色の電灯の下、そっと傾げられた金髪は、昔よりほんの少し短い。
背景にあるのは話の中にあった薄暗い民宿の掠れた襖ではなく、もう完全に見慣れたものになった自室の白い壁紙だった。Tシャツの肩、太い首。ふとそこだけは変わらない、頬の髭に目が留まる。

「覚えてる」
「え、あ、ほんと?」
「あん時の下着ドロはてめえだったのか」

忘れるかよ、と言いつつその顔を見れば、ぎくりとした様子で青い目がこわばった。実際よく覚えている。あの日、作業を終え戻ってきた部屋で風呂に行こうと支度をしたところ、洗って干しておいたはずの下着が見つからず実は小さな騒ぎになったのだ。
――十月。長くなった夜に、夕方から始めた酒盛りは、気が付けばもう随分と進んでいた。
巡る血で少し暑くなってきた上忍服の襟首に、開けた窓から入る秋の夜風が心地いい。湿度もなくさらさらと肌を撫でていくそれには、ベランダで咲く白い花の香りがわずかに混じっていた。腰掛けたリビングのソファからも見えるそれは、ふたり暮らしを始めたその年に、園芸好きの同居人が買ってきたものだ。十代の頃、色々あって里を抜けたオレが、その後さらに色々あって結果的に里へと戻ってきてはこの元チームメイトと一緒に暮らすようになったのは、もう十年以上前のことである。
「けど調べただろ、あの時。お前の荷物も」
手にした酒を少し含みつつ、徐々に思い起こされていく記憶にオレは言った。そうだ、たしかその時の部屋は狭かったし、それにあの日はようやく乾いた洗濯物を一気に畳んだりもした事もあって。なにかの拍子にナルトの荷に紛れたのではないかと、一応そのリュックの中も検めさせてもらったのだ。
「あれ見つからなかっただろう?」
「うん」
「どこに隠していたんだ」
「任務服のポッケ。なんか出すに出せなくてさ、家帰るまでずっと」
ま、雨止んだおかげで任務は次の日で終わったし、ある意味隠すならどこより一番確実だったし。そうやって明かされた真実に、開いた口が塞がらなかった。じゃあ何か? お前二日間ずっとポケットに盗んだヒトのパンツ入れてたのか。呆れかえるオレに、ナルトはまた大真面目な顔でこくりとする。
「信じらんねぇ。どんな神経してんだ」
「……めちゃくちゃスリリングな二日間でした」
当たり前だ、バカ。罵ったが、あまりに古い話に出した声にはきつさが混じらなかった。自分でも感じたが、ナルトも同じような感触を受けたのだろう。へへへ、と照れたように笑う顔は少し赤い。
カロン、と澄んだ音をたてて、タンブラーの中で氷が溶ける。ガラスの中で飴色をみせているそれは、普段であれば滅多に飲むことのない高級酒だ。今日の昼間、待機所でナルトが貰ってきたそれは、外つ国での長期任務を終えた同期達からの土産ものだった。
口当たりの良さに対し、その酒はえらくアルコールの度数が高いらしい。「注意した方がいいぜ、気が付いた時は遅ぇから」とは、贈り主のひとりであるとある面倒くさがりからの言葉である。

「――で?」

なんで今その話なんだ? 尋ねつつ、オレはまた酒を舐めた。そういった流れで帰宅後高級酒の相伴に預かっていたオレであったが、そんな中、突然「聞いて欲しい事がある」と姿勢を正したナルトが語りだしたのだ。
まあ確かに気分のいい話ではないが、あの時事件は一応、とりあえずの収束はしたのだ。結局見つからなかったパンツに、開けっ放しになっていた窓を見て「どっか飛んでっちゃったんじゃない?」とのんきな結論を出したのはカカシだった。
ほぼ無風状態だったあの日にそんな訳あるかと反論したが、そんなオレに「う~ん、でもここ、誰も入った形跡はないし」と当時担当上忍であった男は言ったのだった。たしかにオレの目から見ても、あの時部屋には何者かが侵入した形跡は一切見当たらなかった。しかも盗まれたのを疑うには、あまりにもブツがブツだ。女物ならまだしも、男の下着なんてわざわざ盗みに入ってまで欲しがる奴なんていやしないだろう。そう思ったからこそあの時も、不本意ながらも不便を(下着の替えが無くなったせいでオレはその晩、実に心許ない下半身のまま寝なくてはならなかったのだ)飲み込んだというのに。
「今になって良心の呵責に耐えられなくなったか」
ざまあみろとばかりにちょっと笑ってやれば、予想に反してナルトは「ううん、そういうんじゃねえけど」とあっさり否定した。あ? と思わぬ肩透かしに毒気を抜かれるも、見返してくるその顔には一切の邪気がない。

「そういうんじゃねえのか」
「うん」
「じゃあなんなんだ」
「いや、出てきたんだってばそのパンツ。押入れから」

これ、と差し出された黒いものに、思わず目が開いた。見覚えのあり過ぎる色、デザイン――たしかに十代の頃自分がいつも選んでいた黒のボクサーブリーフ、それとまったく同じものだ。
「おまっ……ずっと持ってたのか!」
十数年越しの再会に思わず大きな声が出るも、ナルトはきょとんとした顔でこちらを見つめ返すばかりだった。
へ? というその目には、まったくもって迷いがない。

「ずっと持ってたってばよ?」
「なんで捨てねえんだ」
「はあ? 捨てねえよ、このオレがサスケに関わるもんを捨てられるわけねえだろ!?」

友達だからな! と頑として言い切っては胸を張る男に、なんだか頭が痛くなる思いだった。友達というのは盗んだ下着まで保管するものだろうか。なにかが違う。絶対に違う。
「いや、でも別にそれは偶然で。元々はそのタンブラーを探してたんだってば、その酒マジでいいやつらしいからさ、どうせならいつものコップじゃなくもっとカッコつけてみようかなって思って」
絶句したままのオレに何故か得意げになりながら(本来ならばこの態度も完全に間違いである)、ナルトが語るにはこうであった。
せっかくの高級酒、どうせならきちんとしたグラスで飲んでみてはどうだろうと考えたナルトであったが、生憎うちのキッチンに並んでいるのはどれもこれも使い勝手重視の量産品だけだった。そんな時ふと思い出したのが、押入れの奥にしまい込んだガラスの一対だ。これまた貰い物であるそれはまだ二十歳になるかどうかという頃に招かれた先輩上忍の結婚式で土産にと持たされたもので、大変に綺麗な一品ではあったが少々繊細過ぎた。ありがたくはあったがこんな洒落たもの普段の生活には使えねえなと、当時のナルトは結局箱から出す事さえしなかったらしい。そうしてそのまま押入れの奥にしまい込んでいたのを、今回貰ったその高級酒の重みのある瓶を眺めている内に、ふと思い出した。そうして今がその時とばかりにかの贈答品を捜索してみたのだという。
そんな突発的な家探しの中、探った古い自分の荷物に紛れ込まされていたのが件のパンツであった。おお、そうかオマエこんな所に…! とばかりに取り出したそれに、前述のカミングアウトが決意されたのだという。さても長い言い訳である。

「そういうわけだからさ、すげー今更なんだけど、やっぱちゃんと謝らせてくれってば」

あの時はごめんな、と言いつつ改めて差し出されたパンツは確かに大昔の記憶と変わりないものであったが、だからといって自分としては別に懐かしむようなものでもなかった。
というか今更これを返されてどうしろというんだ。サイズは完全にオーバーしているから使いようもないし、代わりに大事に保管しろとでもいうのか。
「そういやお前、結局これはいてみたのか?」
ふと気になって尋ねてみると、訊かれた途端、熱く語っていた日焼けした顔はぴたりと動きを止めた。ゆらり泳ぐ目。ひたりと寄る嫌な予感に、思わず尋ねたこちらも黙る。
「……言わなきゃダメ?」
ナルトがそろりと訊いてきた。
「いや、言わなくていい。というか言わないでくれ」
見詰めてくる青い目に、こちらも思わず額を抑える。
始まりはバカバカしくもちょっと懐かしい思い出話だったものが、話が深くなるにつれてだんだんと怪しげなものになってきた。……しかしまあ、ナルトがオレに関してはちょっとおかしくなるのは割といつもの事だ。そう納得しては(このあたりオレもだいぶこの男に絆されてしまっていると思う)差し出されたパンツをとりあえず受け取ると、そこにナルトが小さな声で「…なあ、」と言う。

「それさ、サスケどうすんの? 捨てちゃうの?」
「? ……まあ捨てるな。持っててもしょうがねえし」

尋ねられた質問に深く考えるまでもなく答えると、訊いてきたナルトは(だよな)といった感じでウムと口を結んだ。
そうしてからちょっとあらたまったふうで咳払いをすると、「じゃあさ、」と再び畏まってはオレの前に膝を寄せてくる。
「だったらその――捨てちゃう前に、さ。最後に一度、それはいてみねえか?」
「あ?」
「変化の術で。十三歳になればさ、それはけるだろ?」
告げられた提案に、急に部屋がしんと静まり返ったようだった。妙に男前な表情でオレを見つめてくる、そのまっすぐなブルーアイズはどこまでも真剣だ。

「……なんのために」

返す瞳で短く問えば、男は「えっ」と小さく言っては身じろいだ。拵えていたイケメン顔がみるみる赤くなる。
あっという間に崩れ去ったそれに、オレは黙ったまま目を眇めた。
そうして待っているオレにやがて女子のように恥じらいつつも、顔を赤らめたその大男は言う。


「や、その――十三歳のサスケにさ、おっきくなったオレを見てもらいたいなー……なんて♡」


バチッ!
考える前に飛び出た火花に、男は即反応した。はっとして退いたそのこわばった顔を、ゆらり立ち上がっては冷たく見下ろしてやる。

「……そこに直れ、変態」

その間違った成長矯正してやる、と火花散る左手を握りしめれば、ナルトは「えええ!」と小さく叫んだ。なんで、別にオレってば…! というその胸倉を、容赦なく掴んでは引っ立てあげる。
「うそっ、どこがダメだった!?」
「表現がやらしい」
「あっ――じゃあ言い直します!」
「言い直してもダメに決まってんだろ、このスケベオヤジが!」
ありえないオーダーにざくざくとその言い訳を切り捨てると、拳を構えたオレはその狼狽える碧眼を睨んだ。何を考えているんだこいつは、そんなのどう考えても倫理的に問題有りだろう。

「たっ――誕生日!」

仕方ない、可哀想ではあるがパートナーとしてきちんと再教育をと思った瞬間、ナルトが叫んだのはそのひと言だった。特別なそのワードに、思わずグッと力を込めようとしていた腕が止まる。――そう、今日は十月十日、ナルトの誕生日なのだ。同期達からの滅多にない高価な土産も、実は土産というよりもその祝いとしての意味合いが強い。テーブルの上、光を受けてつやつやと輝く酒のボトルの横には、適当に畳まれた包装紙と一緒に長い朱色のリボンが解かれたまま転がっている。

「今日誕生日じゃんか、オレってば」
「……」
「そりゃサスケが一緒にいてくれるなら、それだけでオレ本当に満足なんだけどさ。でもたまには少しだけ欲張ってもいいってば? 普段だったら絶対言わないし」

こんな日は年に、一度だけだから。
そう言われてしまうと、さすがに完全無視はできなかった。
今日は確かにナルトの誕生日で、特別な日で。……オレの方だって本当は、今日はナルトに色々とサービスをしてやろうと。そう思っていたのだ。
「あのさ、見せてくれるだけでいいから」
「……」
「その、エロい事はしない! そこまではさすがにさ、ちゃんと自制するってば!」
「どうだか。そういうのはちゃんと自制利かせた事がある奴が言えよ」
冷たく切り返すも、そんな仕打ちにもすっかり慣れっこなのかナルトはまったく怯んだ様子がなかった。
ほんと、絶対、オレってば嘘つかねーし!
へこたれる様子もなくぽんぽんと言葉を並べるその姿に、在りし日の姿がうっすら重なる。……ああ、こいつも昔だったら、こう言われたらむきになって「なんだよそれェ!」なんてすぐにかわいくむくれたものなのに。あの頃は良かった。

「な? ほんと、ちょっとだけ」

そう言ってはじっと見上げてくる目に、悔しいかなぐっと黙らされた。――ちくしょう、このウスラトンカチが。相変わらずミスばっかのドベのくせに、こういうところだけはちゃっかり腕を上げやがって。

「………見せる、だけなら」

ちっ、と舌打ちしつつも呟き構えを解けば、聞いた途端ぱっとその顔は晴れやかになった。
ヤッター! サスケ大好きだってばよ! などと抱きついてくるその厚い身体に、思わず遠い目で揺さぶられる。
(クソ……なんでオレがこんな事)
とりあえず目を閉じさせたナルトに更に後ろを向かせ、背後に立ったオレは改めてそのブツを見下ろした。記憶の通りの配色、記憶の通りの生地感。それにしてもちょっと驚くのがその幅の無さだ――というかよくよく考えてみたらこれ、オレのパンツであるというより今はナルトの使用済みパンツって事になるんじゃねえか? 先程見た泳ぐ目にふとそんな事も思ったが、いやいやそれは今考えまいとばかりに、素早く手を組み印を結ぶ。

「あれ? なんか、それ……はいてる?」

呼びかけに振り返った時、ナルトは最初そう言った。着替えの衣擦れにわくわく耳をそばだてていたらしいその顔が、目にしたオレの姿にふと首を傾げる。
「ぜんぜん見えねえけど」
「見えなくてもはいてる」
「けど、見えねえけど」
「しょうがねえだろ、上は大人サイズなんだから」
そこまで昔の姿に合わせる事もないだろうが、と言いつつたくし上げたのは、変化する前から着ていた上忍服のハイネックだった。変化をしてからリクエスト通りはいてみたはいいが、実際やってみると思った以上に昔の自分の身体は細く頼りなさすぎで、パンツ一丁のあまりの心許なさに思わず上を着直してしまったのだ。
「……よし、じゃあもういいな? とにかくオレは、一度はいたぞ」
すうすうと落ち着かない下半身に早々切り出すも、依頼主であるナルトはまったく納得いかない様子だった。
えーなにそれ、さすがにコレはなくねえ? 座ったソファの上、崩した姿勢のまま腿に頬杖をつきながら、すっかり大人びたその顔を顰めさせてはぶうぶうと文句を言う。

「こっちきてよ」

ほら、と開かれた腕に、溜め息は出たが仕方なく警戒しつつ誘われた。 ソファに掛けたままのナルトのその膝の間に、割って入るようにして身体を進める。
深く座ったシートの手前、股の間にみえる狭いスペースに、オレは慎重に膝を乗せた。きし、とまたソファが鳴ったが、先程よりもその音はずっと軽い。なんとも心許ないそれに、また緊張する。
「抱っこしていい?」
見上げてくる目をわくわくと輝かせ、ナルトが伺ってきた。
「ダメだ」
「なんで、むぎゅーってするだけ」
「さわらないって約束だった」
「ちょっと位はいいじゃん、やらしいことはしないからさ」
ほんとほんと、など軽くと請け合うナルトに怪しみつつ身を預けると、すぐに包み込むようにして長い腕が回されてきた。最初はそっと、しかし次第にぎゅっと。引き付けられるようにしてその腕に閉じ込められれば、寄せられた顔に耳元があたたかくなる。
「……ほっせえなぁ」
どこまで力入れていいのかな、これ。そう言いながらも、ナルトの腕は強かった。少し締められた力に背中がしなる。こちらからも腕を回そうにもその身体はあまりに大きく、結局オレの手のひらが掴んだのはナルトの着ているTシャツの脇下だった。部屋着のやわらかな生地が変に伸びる。普段とは違い過ぎる勝手に、身体の置き場がよくわからない。
「ちょ、サスケそこくすぐったいって」
ひっひ、と喉を引き攣らせナルトが身を捩る。そうされればますます落ち着かない身体に、掴んだ生地が伸びた。すっと上げられた手が頭に乗せられてくる。
もーほんとやめて、離して、と言う笑い声に腕を下ろすと、頭のてっぺんを覆っていた手のひらが軽く押してきて、こつんと額が硬い肩の上で固定された。
「つむじ、かわいーな」
昔はこんなのも見下ろせなかったなあ、などと呟くナルトに、えいっとばかりにてっぺんを押される。なにがそんなに面白いのか「ククク、」と笑うその揺れにムッとして、即座に顔を上げた。間近にあるナルトの顔が大きい。顔でけぇなお前、と思ったままに伝えると、きょとんとしたナルトはすぐに「えぇ?」と眉をしかめた。
「普通だろ?」
「いや、でかい」
「サスケが小さすぎるんだって」
「それは今小さくなっているからだろうが」
「うーん、それはまあ、そうなんだけどさ」
言い返すと、納得しきれないのかナルトはそんなふうに曖昧に語尾を濁した。ぎゅう、と抱き締めてくる腕に力がこもる。太い首筋に耳が押し付けられると、そのうすい皮膚の下で血管がどくどくと脈うっているのが聴こえた。血がたくさん流れているんだな。熱い肌にぼんやりと、そんな当たり前の事を感じる。
ふとナルトが、少し背を後ろに引いた。しげしげと十三歳のオレを眺めると、あらためて(ほぅ)と溜め息をつく。
「ほんと、こんなちっせえ身体でさぁ……」
深いところから滲み出してきたようなその声に、妙に鼓膜がじんとした。あやすように髪を撫でてくる手に、目を細めるとまた胸の中に閉じ込められる。
……今度もし機会があれば、これと同じ事をナルトにしてやってもいいかもしれない。
全身を包みこむあたたかな体温にそんな事を思ったりなどしていると、

――ぺろん。

突然上着を捲りあげる手に、思わずびくっと身体がこわばった。
「……っ!?」
「あ、ホントだはいてる」
感心するような、しかし明らかに嬉しそうな声。かあっと一気に羞恥が駆け巡るも、しかし間を持たず今度はクンと腰に小さな摩擦を感じた。
引っ張られる感覚に素早く後ろを見ては唖然とする。背骨の始まり、尾てい骨のすぐ上辺り。割れ目の延長に指を差し込むかのように、節くれだった太い指が三角の覗き穴を作っている。


「おっ、まだ青い!」


耳にした途端、考える前に膝が出た。容赦することなく思い切り打ち込まれたみぞおちに、「…うぐっ」とその大きな身体がふたつに折れる。

「痛っだ――…! ちょっ、酷くね!?」

堪らず手を離しては苦し気に腹を抑えるナルトに、素早く後ろに手をやっては捲られた後ろを確かめた。
……ったく、ちょっと甘やかしてやればすぐにこれだ。油断した自分にも思わずチッと舌打ちがでる。
「今いい感じだったじゃん、なんで急に――!?」
「さわんなって言った」
「どこもさわってないじゃん!」
「さわった。引っ張って覗いただろ」
パンツにも触れるな。腕組みしつつきっぱり宣言すれば、さすがのナルトもムッときたようだった。
……なんだよ、まだケツも青いガキのくせによ。
ぼそぼそ言われたそんな文句に、「アァ?」とこちらも声が出る。
「なんだその言いぐさは」
「別にィ」
「……手は出さない約束だ」
「はいはい、わかってますよ。サスケちゃんはいつだって正しいんだもんな」
もうしねえよ、ケチ。そう言いつつ大人げなく出されたあかんべに、こちらもむかむかと頭にくるものがあった。この野郎、ちょっとでかくなったからって調子に乗りやがって。苛立ちつつふと視線を動かせば、目に入るテーブルの上。

「――ナルト、手を出せ」

思い立ちに命じれば、ひとりふてくされていたナルトは「はァ?」と訝しんできた。しかしすぐさま「…ん?まってなにそれ、さわっていいってこと?」と現金なその身がぐいと身を乗り出す。期待するその顔に返事を返さないまま、「いいから手だ。両手」と更に催促した。
「両手?」
「両手」
「なにすんの?」
「黙って出せよ」
意味がわからないながらも一応差し出してみたらしいその両手の手首を、黙ったままおもむろにぴたりとくっつけた。「?」とナルトが首を傾げる。あの、と出された声にその力が抜けた。間髪入れすそのタイミングでしゅるりとその手を纏め上げる。使ったのは先程までテーブルの上に転がっていたリボンだ。同期達からの珍しく気の利いたプレゼントを、数刻前まで包んでいたそれ。
「…は?」
「よし、もういいぞ」
「いやもういいぞって――なにこれ、これじゃあ手ェ使えないじゃん」
固められた手首にぽかんとすると、ナルトは試すように手首を動かした。そこにきてようやく、呆気にとられていた顔がはたとなる。
「……え? いやこれ、ホントに縛ってない?」
気が付いたらしいその声に、思わずニヤリとした。その通り。手首に施したのはそう簡単には解く事の出来ない、任務でも使う真面目な捕縛用の結びだ。
「リボンきついんですけど」
「大丈夫だ、血は止まらないようになってる」
「……ここまで信用ねえの?!」
「ない。悔しかったら自分で縄抜けしてみろよ」
もうケツの青いガキじゃねえんだろ? しれっとされた仕返しにナルトが悔し気な顔になった。しかし纏められた自分の手を見るとその顔が(お?)となり、やがてニンマリと笑う。さすがのドベでも気が付いたらしい。
「おいおいおい、なんだってばサスケちゃん。忍者相手にコレはないなあ、このまま印結べちゃうってばよ?」
ほら、と差し出された手が指を組む。普段任務で使う麻縄とは違い、細く頼りないギフト用のリボンは、捕縛用としてはいささか用足らずなようだった。手首の結び目こそはきっちりしているが、十本の指と手のひらは割に自由がきく。

「もー、カワイイ事しちゃって。けど悪ィけどオレってば、こんなのすぐ分身出してそいつに解かせ――」
「なんだ、結局影分身か」

ぽつり言えば、余程聞き捨てならなかったのかナルトはその軽々しい笑いをぴたりと止めた。
は? と確かめてくるその顔。すかさずオレは冷めた視線をやる。
「結局ってなに」
「そのままの意味だが?」
「いけないのかよ」
「いけなくはないが」
「じゃあなに」
「体だけはでかくなっても、結局お前、いまだに縄抜けひとつ出来ないんだな」
溜め息混じりに煽れば、ぐうっとナルトが喉の奥で呻ったのがわかった。すでに半分印の形になりかけていた両手が、じっと迷った末にのろのろと下される。
「……なあ、お前ってさあ、たまに本っ気で意地が悪いよな」
煽るオレに、ナルトは奥歯を噛みそう言った。
「なに言ってる。このオレに『おっきくなったオレ』とやらを見せたかったのは、お前の方だろ」
せいぜい頑張れよ。悠々返すと、じとりとこちらを睨むナルトに鼻を鳴らす。
…きし、とおもむろに膝で、再びソファに乗り上げる。ぬるい酒気の漂う部屋で、それはやけに背徳的な響きをもった。
許可なく伸ばした手で、日に焼けた頬を包む。すっかり精悍さを増したそこは、触れた瞬間ぴくりと小さく身じろいだ。途端、腹の底の方でぞくぞくと愉悦じみたものが広がる―自分でも悪趣味だと承知しているが、オレも大概好きだ。そう自嘲しつつも、劣勢に揺れ始めた青を余裕然として捕まえる。
くれてやった流し目。ナルトが喉仏を揺らす。


「――誕生日オメデトウ、うずまき上忍」


祝ってやるよ。そう言った口でそのまま唇を重ねれば、ほんの少し重みを増した音でソファが軋んだ。
されるがまま半開きになっている唇を、両手で顎を支えつつそっと食む。
子供の口ではそのいかにも気のよさそうな口許をうまく覆うことができなくて、仕方なしに上下に開かれたそれを片方ずつ丁寧に噛んだ。薄皮に包まれぷにぷにとしたそれは、吸い上げてやると呻いてたいそう悦ぶ。それを聴けばまた嬉しくて、他愛なく夢中になった。遠慮もなしにその顎を上げ、仰向けにさせる。まるで蜜を探し当てた熊の仔だ。舐めとったわずかな酒に、舌が熱く溶ける。

「……いけないのはどっちだよ」

吐息と共に唇を離すと、ちょっと憮然とした様子でナルトは言った。
なにを照れているのか、赤くなった顔が困ったようにオレから目を逸らしている。
「さわっちゃダメなんだろ」
「さわったらダメだ」
「さわってんじゃん」
「オレはな。お前はダメだ」
ええ、なんだそれェ! と言う口にまた吸い付く。
ん、と飲み込まれた呻きに、なんともいえずいい気分になった。
いつもだったら不躾にすぐ侵入してくる厚い舌が今日はこない。さすがにちょっと、怒っているのだろうか。そう思いつつもためらっているらしいそれをこちらから迎えにいってやれば、両手で包み込んでいる顎がぴくりとする。
濡れた音を響かせつつ、そのまま太い首に腕をまわす。ぶら下がるような姿勢で腰を落とせば、やがて薄い生地に包まれた尻がナルトの腿の上に乗っかった。落ちてきた柔かな肉に、固い筋肉がぐっと張る。わずかに浮いた身体に、ますます得意になり鼻が鳴った。
「……もしかして、酔ってる?」
妙に機嫌が良くなってきたオレに、ナルトが言った。
そうかもしれない。なんだかやけに楽しい。
「ちょっとな」
「ちょっと、かなあ」
「たいしたことねえよ」
「いやだからそれ、酔っぱらいの常套――…ちょ、やめて?!」
サスケ! という喋りかけの声を無視して床に降り、むんずと容赦なくそのはかれたズボンの両サイドを掴んだ。ぎくっと止まる腰に、間髪入れず腕を引き下ろす。
ずるんと抜けるスウェットパンツに引き摺られるかのように、ソファに座るナルトの尻が前に滑った。驚いたその顔がおかしい。崩された体勢を前に、思わず口元が緩む。

「……ちょっとじゃないな!?」

一連の動きに息が止まっていたのだろう。くつくつと込み上げる笑いに肩を揺らすオレの前で、縛られた手のまま衝撃に固まっていたナルトは、ようやく吹き返して言った。
なんだか妙に大人ぶったその口調に「ふ、」と笑う息で応える。そういえばたしかに身体が小さくなった分、酔いのまわりが速くなったのかもしれない。ちらりとそんなふうにも思ったけれど、ひとまずは欲望に身を任す。

「あっ――こ、こらダメだってば!」

お返しとばかりにべろんとTシャツを捲り上げる。あらわにされた股間部に、「こら」なんて言いつつもナルトは期待が隠せないようだった。途端にそわそわと目を泳がしつつも腰を浮かすその顔は、建前上困ったふうにつくられているがすでに真っ赤だ。そんなナルトを無視し、オレはその下腹部に目をやる。
(……わからん。こんな物のどこにそんな盛り上がる要素があるんだ)
視界に映るその布切れにオレは思う。見下ろしたそこにあるもの、股間から筋肉で締まった腰回りまでを覆うそれは、今ではすっかり見慣れたものになったナルトのパンツだ。なんてことないグレーのボクサーブリーフ、三枚セットの特売品であるそれ。
パンツにどうこう思うナルトとは違い、オレにとってのそれは、どう見ても下着以外の意味を持つこともない単なる『モノ』なのだった。綿75%ポリエステル25%の繊維品、ウエストゴム部分には若干のナイロン使用。
これのどこにナルトはその妙なロマンを抱くのだろう。
個人的には繊維の配合率のほうが、その存在においては余程気にかかる。

「あ、のー……さ、さわっても、いいですよ?」

動かないオレに焦れてきたのだろう。妙に丁寧な口調でナルトが進言した。
なにがさわってもいいですよだ。立場をわきまえろ。
「見てるだけなの?」
「見てるだけだ」
「……遠慮しなくてもいいってばよ?」
「心配するな。そんなものお前にしたことない」
そ、そうですか、というナルトの落胆を無視する。試しにびよーんと引っ張ったウエストゴムから指を離せば、ぴしりと戻ったそれに「うっ」とその腹が呻いた。つつつとその柔かな生地に指を滑らせ、ついでのように(むに、)とその中心部を押さえてみる。呻いた腹が、今度はひくりと緊張した。
(……ふわふわしてんな)
存外気持ちのいい感触にふと思い立ち、一度床へと降りる。ぺたんと膝をついてから、おもむろに片側の米神あたりをその膨らみに預けてみると、股間を枕にされたナルトは「ぎゃっ」と変な叫びを上げ尻を浮かせた。うるせえなと思いつつも、太い腿にしがみついてはその揺れを凌ぐ。やってみると予想していたよりもずっと、そのふわふわは頬を寄せるのに悪くない。他より高い急所の体温に妙にうっとりしてしまう――認めよう。オレは酔っている。
「ぎゃっ、とはなんだ」
落ち着かない枕に、薄く目を開けオレは言った。
「遠慮すんなって言ったのはそっちだろ」
「いや、だってさァ!」
「おい、寝にくい。硬くすんなよ」
「む、むり。ってかごめん、やっぱそこどいて――その格好でそれはほんとやばいから!」
切羽詰まった様子のナルトに「ふーん?」となりつつも、目の前をみると今度はそこにあまり日に焼けていない腹が見えた。オレよりは肉が乗っているけれど、それでも現役の忍らしく鍛えたそこは固い。顔を上げ、触れた瞬間ひくりと揺れた腹筋を、伸ばした指先で下から上へとなぞった。やはり期待してしまうのだろう。ふと見ればすっかり盛り上がってしまったソコが、ぴんとテントを張っては早々とまるい滲みをつくっている。

「――みっともねえなあ」

ぷっとついふき出せば、ナルトは「だって、んな事いわれてもさァ…!」などと言ってはまたむくれた。いやに可愛いくみえるその顔に、またキスがしたくなる。
思い立つまま再び立ち上がり背を伸ばしたオレに、寄りかかったソファの表面が柔らかく沈んだ。やっぱこいつの顔でかいよな。そんな無礼な事を考えつつも、啄むようにして始めたキスがやめられない。

「……なあ、まじでこれ取ってくんない?」

散々好き勝手しているオレに、さすがにちょっとは言いたいのだろう。ようやく唇を離すと、はふ、と息を熱くしたナルトがそう懇願してきた。
オレだってサスケにさわりたい。
そんなふうに訴えてくるナルトは確かにかなりの我慢をしているらしい。熱をはらむ青い瞳は、すでに涙ぐんでさえいるようだ。
「ダメだ。それを禁じるために縛ってるんだろ」
同じ男としてはやや気の毒ではあったがそこを敢えて告げる。すると「…なんだよ、酔っぱらいがいきがっちゃってさ」などと、ナルトは口先を尖らせてきた。
感じの悪い文句だ。なんだか水を差されたような気分になる。
「いきがるとはどういうことだ」
「だってそうじゃん、そんなガキの格好でさ」
「悔しければ縄抜けすればいいだろ」
「だって無理だもんこれ、縄と違ってこのリボンしならないし。つかこれ本当に血ィ止まらなくなってんの?オレってばさっきから、なんか手首痺れてる気がするんだけど」
「あ? バカいうな、そんなわけ――…」
言いながらもふと不安になり、すぐさま乗っていた膝をオレは降りた。仕事柄手は最も重要だ。酔った勢いとはいえ万が一でも何かあってはいけないとばかりに、腹の上に力なく乗っているその手を取ると、急ぎその手首を確かめる。
太い手首。筋の浮いたそこには、巻かれたリボン以外特に傷どころか深い痕ひとつない。

「なんだ、やっぱり何もないじゃないか、どこも」
「ひっかかったな」

含み笑いの言葉に、え、と訊き返す間さえなかった。
くるりとその手首が返り確かめていた手が逆に取られると、大きな手のひらと長い指に促され、手のひら合わせのまま強引にひとつの印を作られる。


「変化!」


声と共に『ボン!』という爆ぜる音がして、辺りは再び盛大な煙に包まれた。しかしその一瞬後、咄嗟に目を閉じてしまったオレの肩を誰がかぐんと掴んでは押してくる。
飛び掛かるようにして抱きついてきた生き物は、そのまま勢いよくオレを押し倒すとにんまりとそこで馬乗りになった。ぶかぶかになったTシャツ、そこから覗く丸い肘。華奢な子供の姿とはいえ二人分の体重に、十年目のソファはよく耐えた。ぐんと深く沈んだシートの下でスプリングが泣きながら戻る。

「――ごーかっく?」

ニコニコしつつ、妙に覚えのあるイントネーションでナルトが覗き込んできた。細い首の上の顔はまさに喜色満面だ。ぶら下げるようにして見せてきたすっかり緩くなって用を為さなくなったリボンに、つい舌打ちが漏れる。
「……なにが合格だ、縄抜けっていわないだろそれ」
「えー? でも影分身は使わなかったし」
「そういう問題じゃねえよ」
「だってサスケ、忍術禁止とは言わなかったじゃん」
やっぱりどっか甘いよなあ、お前。そんな言葉に、もうひとつ舌打ちが出た。笑うナルトが唇を寄せてくる。オレと同じサイズになったナルトのそれは、文句を塞ぐのにちょうどよさそうだ。やすやすと重ねられてきたそれは今度は迷うことなくオレの中へと侵入してくると、先程のお返しとばかりに強く舌を吸い上げては食む。
「……なんかこれはこれで、ちょっとイケナイ感じ?」
いいのかな、この姿でこんな事までしちゃって。子供同士の唇でした深いキスに、離れたナルトはふと悩まし気に言った。なんだその、これはこれって。そう言いながらも呆れて見せるオレだったけれど、突然胸にはしる(ちりっ)とした痛みに、思わずきゅっと眉が寄る。

「――あっ」
「うーん、いけない。声もかわいい」

そんな言葉に薄眼を開くと、どうやらその痛みナルトがオレの乳首を抓ったものらしかった。下に気を取られているうちに上着を捲られたのだろう。露わにされたオレの胸で、ナルトの悪戯じみた目が、睨むオレをきょろりと見る。ふわふわとした金の髪が肌の弱いを擽ると、こそばゆいもどかしさにひくりとあばらが震えた。幼気なままふくらんだ小さな蕾を狙う、先を尖らせた桃色の舌――これのどこが『いいのかな』なのか。呆れてもう溜め息しか出ない。

「…んんっ…!」
「サスケ、からだ、すごい赤くなってるってば」

ちろちろと焦らしては濡らされると、どうにも背中がうねってしまう。
感嘆するような言葉に「あつい、から」と小さく告げると、「そっか」と言っては捲り上げられたハイネックがすぽんと抜かれた。巡る血に息を乱しつつ、適当に放られたそれを視界の端で捉える。オレも、と言いながらナルトがぶかぶかのTシャツを脱ぎ捨てるのも見える。上げた腕に一瞬見えたつるつるの脇。なんだか妙に可笑しくなる。
「なるほど。こういう感じだったのか」
ちょんちょんと真ん中の膨らみをつつき、納得したようにナルトが言う。伺うようなそんな仕草の後、あーんと開けた口に(はむっ)と食べられた。もはや遠慮もなにもあったものじゃない。布越しに感じる濡れた感触に、他愛なくそこが芯をもつ。
ふと下を見遣れば、そこには意識もないままに揺れてしまう子供の腰が見えた。目にしてしまった光景に恥ずかしさが込み上げるも、けれど身体はみっともないほどに煽られ、芯に点った熱は更に膨れる。

「…あ、あァ…っ」
「なんか…――すげえ、感じてんなあ」

いつもより燃え上がりの早い身体に、少々驚いたのだろう。布越しの愛撫から顔を上げたナルトは、溜め息と共にそんな事を言った。
確かに体中が火を噴きそうに熱い。視界もゆらゆらと定まらなくて、なんだか天井も回っている。

「平気か? ホントに全身真っ赤だけど」
「…ん、」
「そんなに気持ちいいの?」
「……いい、っていうか」
「っていうか?」
「あたまが、くらくら、する」

きれぎれに告げると、早くもろれつの回らなくなったそれにナルトが「ふうん?」と首を傾げた。しかしその目がふとテーブルの上で封を開けられているままの酒瓶に留まり、ラベルの端に書かれている異国の文字を追ったかと思うと、突然『はっ』と何かに気が付いたふうで固まる。
つられるようにしてオレもそのラベルを見れば、銘らしき大きな金文字と共になにやら細かい文字が端に印字されているようだった。
書かれた異国語は全然読めないが、共通の数字と雰囲気で云わんとすることはなんとなくわかった。
ラベルの端にさりげなく添えられた注意書きはたぶんこうだ――『お酒は二十歳になってから』。

「しまった、オレら今」
「…る、とォ…」
「うわっ、やばい――やっぱむちゃくちゃ酒まわってんだろお前、身体すげえ熱いってば!」

くったりとソファで横になるオレの首筋をさっと確かめると、慌てた様子でナルトが小さく叫んだ。戻んなきゃ、と言うが早いか再び手が取られ、あれよという間にするりと合わされる。ぼおっとする頭のまま動かされる手に、なんだこいつ、からだのわりに手ばっかりでけえなあ、なんて思った。勝手に結ばれた印の向こう、オレとは逆にゆるゆるになったナルトのパンツがたるんでいるのが見える――中から覗いている頼りない金の毛。
……はは、すっくねえの。
そう言って笑ってやろうとした時、気合いの入った声が響いた。


「――解!」


ぼふん! という音と共に、三度部屋は煙に包まれた。
はずみで閉じてしまった視界の中、一瞬、白い花の香りがひときわ強く香った。