第一話

『――午後も全国的にすっきりしない天気でしょう。九州は南部を中心に雨が降る見込みです。中国・四国から東海の雨は次第にやみますが、雲の多い天気が続くでしょう。関東から北海道は太平洋側ほど雲が広がりやすく、所々で雨の降る地域…

第二話

樋を打つ雨の清かな音に目が覚めたのは、セットした目覚ましのアラームが鳴るよりも先だった。むくりと起きて隣を見れば、大きな体をイモ虫のように丸め込んで眠りこける男がひとり。狭い一人用の寝具の中でそれなりに遠慮をしたのだろう…

第三話

終了まであと少しという所だったのに、再び陰りだした空からボツボツと落ちてきては背中を叩く雫によって、作業は中断を余儀なくされた。ナルトはさっきから無言だ。たぶん先程の足裏の感触を思い出しては、吐き気を抑えるので精一杯なの…

第四話

実のところ、その日の事や辺り構わず泣きじゃくっていた香燐の事を、サスケはよく覚えていないのだった。ただ大人達に囲まれた街灯の下で、厳しいけれども普段手を上げることなんて一切なかった父親から、恐ろしく重たいゲンコツをくらっ…

第五話

ある朝目覚めたら、ぼやけた視界の中に隣で眠る、超絶美人を発見してしまった。漆黒の髪、赤い唇。そして淡雪みたいに侵し難い、しろいしろい肌。 (――キス、とか、したら……) 目覚めちゃったり、するのかな。正直者で純朴でおまけ…

第六話

目覚めた時、怒涛の宿酔と共に鼻についたのは、湿気の籠る部屋に漂ったそこはかとないカレー臭だった。流しを見ると、一人分の皿とスプーン。鍋には火を入れ直したと思わしき自作のカレーが、底の方にほんの少しだけ残っている。(……な…

第七話

土曜日の朝は久しぶりの快晴で、まさに絶好のドライブ日和だといえた。運転に慣れていると言ったのは嘘ではないらしく、レンタカーのハンドルを握るナルトの手には熟れた様子が伺え、ペダルを踏む足にも安定感が漂う。地方へ行く遠征に比…

第八話

噂には聞いていた恩師の親友だという人物は、とかく賑やかな剽軽者でよく笑う人物だった。ハンサム――なのだと思う。だが面白可笑しいキャラクターが災いしてか、その美形は残念な事に完全に鳴りを潜めてしまっていた。上背もあるし、黙…

第九話

散々からかわれながら浸かった湯はいささか長風呂が過ぎたらしく、気にしたサスケ(本物)が様子を見に来た時には、二人共すっかり全身ゆでダコの様相と化していた。慣れた様子で客間に泊まると言うオビトと別れ、案内をするサスケの後ろ…

第十話

気付けば昨夜のサスケと同じ姿勢で鼾をかいていたナルトは、窓から流れ込んでくる脂の焼ける香ばしい匂いに釣られて目が覚めた。日差しがもう強い。外の庭木に鳥が来ているらしく、時折「チュイッ、チュイッ」というさえずりが大気に澄ん…

第十一話

実家を出て、叔父の病院を経由してから高速に入った車は例によってサービスエリアに停まる度に間食(兼昼食)を繰り返し、到着地である駅の近くにあるレンタカーショップに車を返しても、厚い雲の隙間から時折思い出したかのように顔を出…

第十二話

いつもは一括りに引っ詰めている髪を半分だけ下ろしたシカマルは、待ち合わせのアイスアリーナに現れた時、何故だか既にぐったりしていた。会ったらまずは文句を言ってやろうと思っていたのに、こちらを見た瞬間吐き出されたため息があま…

第十三話

マイナースポーツの月刊誌は自宅近くの小さな書店では扱いがなくて、バイト先近くにある都心の大きな老舗書店で、その日ナルトは長く愛読している専門誌の表紙を探していた。お目当てのものを見つけ、整然と立ち並ぶ書架を縫いながらレジ…

第十四話

場違いな着信メロディは止まらない。その中で「なあ、もしかしてお前さ」とサスケはなおも問いただそうとしてきた。真剣味を帯びた声に、動悸ばかりが速まっていく。足よりも先に動きを取り戻したのは手の方で、意識が戻ったナルトがまず…

第十五話

そして彼はやって来た。管理人室を閉めてから来たのだろう、それは定められた業務終了時刻のきっかり十分後だった。大きな雨傘をたっぷり湿らせて、白いシャツにジーンズ姿の彼は場違いな爽やかさで派出所の軒先に現れると、無表情のまま…

第十六話

場違いな着信メロディは止まらない。 硬直したまま何も言わないナルトに、「なあ、もしかしてお前さ」と問いかけた。 その声に弾かれたかのように動き出したナルトは慌てたように鳴り続けている携帯を取り出すと、急いた仕草で通話ボタ…

第十七話

「え?『うちは』って、あの『うちは』?」 水月とは先日知り合ったばかりだという割には砕けた様子でやって来た大学の上級生は、サスケが名乗った途端、急に面倒くさそうだった態度を一変させた。 じっとこちらを見つめると、「もしか…

第十八話

最初にその金色を見かけたのは二年と少し前、三月半ばの初春の頃だった。回覧板を隣のマンションの管理人の所へ持っていった帰り、正面の路上から見上げたアパートの二階廊下部分にいた、見知らぬ異国人。ヨレヨレのパーカーに、草臥れた…

第十九話

――思考が。こんなにも停止したのは、久しぶりだった。気がついたら体が勝手に動き出していて。駆け出した足が地面を蹴っているのに気が付いたのは随分と後だった。さっきまで道に溢れていた色鮮やかな雑音が消え、ただ体内で脈打つ自分…

第二十話

(ええと、テマリさんの生チョコは買っただろ、チヨばあのバターサンドにカカシ先生のじゃがポックルに、あと……)ひっきりなしにアナウンスが流れる白い構内を、大股で足早に突っ切った。飛び去っていく轟音が近い。外国人のツアー客だ…

第二十一話

「……何やってんだ?お前」掠れそうになる声をどうにか保ちながら尋ねると、手元に視線を落としたままの横顔が、「何って、草むしり」となんでもないような口ぶりで、素っ気なく答えた。「いいって。俺の仕事なんだから、俺がやる」なん…

第二十二話

『うーちはさん』『ああ、チヨさん。こんにちは』『ほらこれ、うちはさんにお土産~』『わ、これってこの前話されてた?』『そうそう、鶴屋の限定栗羊羹!今日出掛けたついでに店を覗いたら、最後の一本が残ってての』『いいんですか、あ…

最終話

『となり、あいてますか?』