pumpkin/pumpkin

これなーんだ?
金髪頭の下に笑顔を湛えてその両腕に抱えてきたブツを見せる同僚を確認すると、サスケは速やかに玄関のドアを閉めようとした。
……ちょ、まてまてまてぃ!!!
慌てて片方の足先を閉まりかけたドアの隙間に突っ込んだ少年が、そのまま無理矢理肩まで部屋の中へねじ込んでくるとするりと器用に玄関に侵入してくる。
「……何しにきやがった」
サンダルを脱ぐのを許したら負けだと本能で感じ、上り框の前で仁王立ちになる。
出来うる限りの拒絶の声を出したつもりだったのだが、全く意に介さない様子で金髪の少年は玄関の土間で再度嬉しげに言った。

「これ、なーんだ?」

  * * *

野菜嫌いでカップ麺ばかり食べているナルトを見かねたカカシが、時折ナルトの元に野菜を届けているのはサスケも聞いていた。
ナルトも苦手とはいえ食べ物を粗末にするのは気が咎めるのか、一応その野菜達をなんとか腹の中に収める努力をしてきていたらしい。とにかく焼く!とか、いいから煮る!とかで誤魔化しながら消化してきたが、さすがにこの巨大カボチャには困ったのだという。
ただ食べるだけにしては、あまりにも大きい。
そこでどう扱ったらいいものかと思案していた所、街で刳り抜かれてランプのようになっていたカボチャを発見して、これだ!と閃いたらしい。
「……で?」
「だから、それを作ろうってば」
「……なんで俺もやる必要があるんだ?」
「だって、最終的には料理して食わなきゃなんねえだろ?さすがにこんな沢山オレ食いきれねえし」
サスケ野菜好きだろ?一緒に作って半分こしようぜ!と、邪気のない笑顔でナルトは言い切った。
……気が付いたらいつの間にかその足はサンダルを脱いでいて。
それを目視したサスケは深く溜息をついた。



ぐっ、ぐっ、と頭に付いているヘタの周りに鋭く尖った先端が入っていく。
切り出す作業をする前に、 なんか道具ない? とナルトに言われ、波の国での任務後から保管していた千本を出すと露骨に嫌な顔をされた。
……おまっ、よくここでこんなの出せんな……と呟きながらも、千本を受け取ったナルトはそこにグルグルと布を巻いて意外な器用さで持ち手を作ると、カボチャの頭頂部に丸く切り込みを入れていき、一巡するとヘタを慎重に外した。作り方は先に調べてきたらしく、迷いのない手つきで蓋のようになったヘタ部分を別の場所に置くと、おもむろに腕まくりをしてカボチャの脳天から手を入れる。

「うひ~~~、ねちゃねちゃだってば」

中でぎっしり詰まって待ち構えていた種達を触った途端、ナルトが裏返った声で叫んだ。「バカめ」と言いつつもその情けない表情に思わず吹き出してしまう。
うわ!おおう!ひえっ!などと一々声をあげて種を掻き出していたナルトだったが、それを見ているうちに不機嫌が引っ込んだらしいサスケをちらりと見上げると、オマエもやってみろよ、と黄色く染まった手でカボチャを差し出した。
絶対に不快だろうな、と解ってはいるのだが先程から盛り上がるナルトにつられ、好奇心に負けて、ついにはサスケもカボチャを受け取ってしまった。ナルトと同じように二の腕まで腕まくりして、恐る恐るオレンジ色のクレーターに手を入れると、生暖かくしっとりとした果肉が爪先に纏わりついてくる。。
瞬間的にうわ!!と思い、指を軽く曲げるとその拍子にこそげた種が掌にねとりと入ってきた。
一気に背中で悪寒がはしる。
不本意にも「ひぃ!」というような声が出そうになったが、ナルトの手前必死で堪えた。

「な?きもちわりーだろ?」

なんでそれがそんなに嬉しそうなんだ!?と腹が立つ程喜色満面な様子で、ナルトが笑って言う。意を決して、指先を曲げ掌をスプーンのようにして中の種を掻いて解してみた。
ぐちょ、ぐちょ、ぐちょ、という音が耳につく。
滑る掌に確かな不快感を感じるのに、次第に何とも言えない愉快さが混じり出してくる。
なりふり構わず掻き雑ぜているせいで、肘まで種や果肉が飛んでべとべとする。多分指先はもうとっくに真黄色だろう。爪の中にまでみっしりと入り込んだ果肉を想像したらちょっとげんなりしたが、もうどうでもいいやというような心持になってきた。

「……きもちわりー」

思いっきりのしかめ面をこしらえて、サスケは呟きながら顔を上げた。
黒い瞳と、それを観察していた空色の瞳がかち合う。

「「…………ぶはっ!!!」」

目があった瞬間、2人はどちらからともなく盛大に吹き出した。
だろ?だろ!?と意味もなく可笑しさが込みあげる。
馬鹿馬鹿しい程の気持ち悪さを他愛なく笑いながら、その後は盛大に床に撒き散らしつつ、競い合うように代わるがわる腕を突っ込んでは種を掻き出し続けた。
いつもは冷蔵庫の低い機械音が響くばかりのキッチンが、騒々しい音で溢れる。
インテリアに拘りのないサスケの殺風景な部屋の中で、ナルトの明るい髪が動くたび、光が零れ落ち、無機質だった部屋が次第に色合いを増していくかのような錯覚を覚えた。人が1人増えるだけで、だだっ広く感じていた部屋がちょうどいい大きさに収まったような感覚さえする。
服にいくつもの種を散らしたサスケは、ふと手を休めてナルトを眺める。
必死で中身を掬うその顔にいくつもの種が張り付いたままなのを見て、サスケは再び吹き出した。



「―――――できたっ!!」
なんとか目と口を切り抜くと、確かに街で見たことのある巨大カボチャが出来上がった。
目を丸くしてしまったのが敗因だったのか、その表情は愛嬌があるばかりで全く怖くはなかったがまあ気にしない事にする。
完成したランタンを前に満足げなナルトを眺めていたが、ふと気になった事を尋ねてみた。
「ところでこれ、何のためのモノなんだ?」
「えっと、ハロウィンていう遠い国のお祭りに使うモノだって」
「ハロウィン?」
「なんかさ、オバケのお祭りらしいんだけどさ」
実はオレもよく知らないってばよ、とあっけらかんと金髪の少年が言う。
まあいいじゃん、面白かったんだからさ。

「……でもな、ナルト」

見事な黄色に染まった指先を検分しつつ、黒髪の少年は言う。
俺、正直もうカボチャは堪能し尽したというか。もういいというか。

「……オレもなんか、お腹いっぱいって感じだってばよ」

苦笑いを見合わせて、二人はしばし思案する。
食べ物は粗末にしてはいけません。
……でもカボチャはもうご馳走様って感じなんです。

「……おい、ウスラトンカチ」
「ん?」
「『とかく女の好むもの 芝居 浄瑠璃 芋蛸南瓜』って知ってるか?」
「なんだそれ」
「……まあとにかく女はイモとタコとカボチャが好きだっていう話だ」
「で?」
「……サクラ、今日家にいるかな」
「あ!?……あー……なるほど」

早速行ってみるってばよ!!と早々とカボチャを抱えてナルトが玄関に向かって走り出した。
サンダルに足を突っ込み、勢いよく振り返る。
「サスケェ!早く行こうぜ!!」
2人で行くことに迷いのないナルトの様子に一瞬呆気に取られたが。
その顔に緩い笑いを浮かべると、サスケは椅子に掛けたままになっていた上着を手にした。

……後日。
寸胴一杯のカボチャスープを持って現れたサクラによって、第7班全員強制参加のカボチャパーティーが行われるのは、また別の話。






【end】
FC2小説にてハロウィンにあわせ投稿したお話。
男子の尻拭いはいつだってしっかり者の女子。ごめんねサクラちゃん……。
私も息子達と一度だけジャック オ ランタンを作ろうと試みたことがあるのですが、後の惨事に激しく後悔してもう二度とはやるまいと思ったのでした。
男子ってどうしてああいう破壊衝動みたいなのにどうにも弱いんでしょうね。
永遠の女子であるお母さんには、永久に理解不能な気がします。

ええ…むっちゃ仲いいな君ら!と2019年の今に読むと思いますが、このころかなり七班に夢をみていたので…いや今も見てるけど。FC2の方はすぐ引っ込めてしまったので今は勿論ないです。当時はpixivさえしらない私でした。ずいぶん遠くまできたものです…。