封印を切って立ち入った倉庫は誇り臭いなんてもんじゃなくて、長らく閉じ込められていた空気には黴の胞子を含め、なにやら色んなものが浮遊しているようだった。
差し込まれた太陽の光に、空気中の微粒子が明るい道筋をつくる。
確かこれは「チンダル現象」とか云うのだ。そんなことを思い出しつつうずたかく積み上げられた資料や葛篭の数々を見渡していると、後ろで「ぶえっくしょい!!」という下世話なくしゃみが放たれるのが聴こえた。んあー、鼻が痒い……!とぐずついてぼやくのは、本日の共同作業員だ。
「きったねェな、だからマスクしろっつっただろーが」
「うー……だ、大丈夫、唾飛ばしてないし。中汚してはいないってばよ」
でも一応タオル巻いときます、とバツが悪そうに言って目だけ残して顔の下半分を覆ったナルトは、既にその金髪を覆っていたタオルと合わせるとさながらミイラ男の様相だった。「さーやるってばよォ!」と腕まくりした肘を、チラチラと漂う光の破片が掠っていく。
光が照らした先に、くっきりとあらわされた家紋が見えた。
覚めるような赤で刻まれたそのうちはの文様に、「サスケェ、これどっから手ェ付けたらいいー?」と尋ねてくる、ウスラトンカチの影が重なった。
* * *
「え?」
「あら、お帰りイタチ」
「……母さん、大変だ。サスケが分身してる」
あらあら、それはすごいわねと笑った母さんは、畳んだオムツを綺麗に重ねて立ち上がると、玄関先で目を丸くして奥の間を見つめているオレを見た。真っ白なシーツで覆われた小さな布団をちらと見て、でもさすがにまだサスケに印は結べないんじゃないかしらねと楽しげな節をつけて言うと、そのまま台所にひっこんでしまう。
ポカポカの日差しをたっぷり浴びたベビー布団の上には、うつ伏せになったまあるいお尻がぽこぽこんとふたつ。
淡い色合いのロンパースに包まれたそれらは、片方はじいっとしたまま、もう片方はゆらりゆらりと、時折左右に揺れている。
「こっちに来てよく見てごらんなさい。先に手を洗ってらっしゃいね」という台所からの声に靴を脱ぐと、洗面所に向かったオレは石鹸を使うのももどかしくばしゃばしゃと手を洗った。急いで居間に敷かれたベビー布団に近付くと、すっかり定位置となったその端っこにぺたんと膝をつく。
ふわんと漂う、甘い赤ちゃんのかおり。
いつもだったら弟がひとりころころと機嫌よく転がっているそこに、どういうワケか今日はもうひとり、金色の髪の赤ちゃんが並んでいる。
「分身……からの、変化の術?」
「まあ、さすがイタチの弟ね。サスケはもうそんな事までできるの」
台所から戻ってきた母さんにくすくすと目を細めながらそう可笑しがられ、ぷうっと頬を膨らめたオレはあらためてふたりの赤ん坊を見下ろした。どちらもうつぶせで遊んでいたところで、そのまま寝入ってしまったのだろうか。伏せられた黒と金の睫毛はどちらもふわふわのほっぺたに安らかな影をつくっていて、うっすらと生えた透明な産毛が明るい輪郭をかたどっていた。まず先にしっとりとした黒髪の方をやさしく撫でる。こっちは間違いなくサスケだ。齢い8ヶ月。オレの弟。
生まれた時からずっと、毎日毎日よおく観察してるのだ。このオレが見間違えるはずがない。
でももう片方の子は――――
「……わからない。この子、だれ?」
まったくもって見覚えのない金髪に白旗をあげると、しなやかな手のひらがやわらかくオレの頭にのせられた。
いとしげな仕草で、てっぺんを撫でられる。
「この子はね、お母さんの大事なお友達の赤ちゃんよ」
「どうしてうちにいるの?」
「……その子のお母さん、今ちょっと遠くに行ってしまっててね。明日まで、うちで預かることになったの」
なんとなく濁された答えに違和感を感じながらも、オレは再びその赤ちゃんを見た。ほっぺに不思議なヒゲがある。サスケの方がお兄ちゃんなのだろうか、並んだ体はよく見ると、その子の方がひとまわり程小さかった。短い金髪はぽわぽわで、いかにも触ったら気持ち良さそうだ。
触ってもいい?と訊くと、母さんは穏やかに「ええ、もちろん」とほほえんだ。
くうくうと寝息を立てているピンクの唇を確かめて、そっとそのヒヨコ頭に手を伸ばしてみた。さわさわともむずむずとも言い難い、何ともいえないくすぐったさ。つるつるしたサスケの黒い髪とは、また違った気持ちよさだ。
(わー……ふわふわだぁ)
段々大胆になってきた手のひらでつるんとおでこを撫でて、そのまま曲げた指の背で変なヒゲのあるほっぺをちょっと掠めてみた。するとピクンと金の睫毛が揺れて、半分開いた小さな口がむきゅっと結ばれる。髪と同じ色の頼りない眉毛がそわりとむずつき、「くふん」とひとつ、小さな鼻が甘く鳴らされた。
「……かわいい!」
「ね。かわいいわよね」
さっきまでふたりで仲良く遊んでたのよ。あんまりかわいいから、母さん思わず写真いっぱい撮っちゃった、とにっこりした母さんはまたひとつオレの頭を撫でると、屈んでいた腰を「よいしょ」と伸ばして、山盛りになった洗濯カゴを持ち上げた。いつにもまして、洗い物が多いようだ。そっか、赤ちゃん二人分だもんなと気が付いて「手伝おうか?」とオレは申し出た。ありがとう、大丈夫よーとちょっと間延びして返ってきた答えに「……でもかあさん、大変そうだ」となおも言う。するとちょっと眉をハの字にした母さんが、困ったようにほほえんだ。
「そうね、……じゃあお洗濯干してる間、この子達見ててくれる?」
「わかった、まかせて」
すぐに頷くと、緩やかに目を細めて母さんは外に出て行った。
ちょっとまだ冷たい初春の風が、開けた窓からしゅるんと舞い込んだ。
(…………あ、)
起きる、と思った次の瞬間には、ぱちんとその眠りは弾けて消えていた。
ぱかっと開いたどんぐりまなこは、驚くほど澄んだ晴天だ。
「母さん、起きたよ」と呼んだ声に、ふにゃんと小さな顔が歪んだ。ふぇっ、ふえええ!という猫のような泣き声に、隣で寝ていたサスケもつられて目を覚ます。
「ふぇええん、えええええん!!」
「……ぅぁん、うあああああん!!」
あらら、仲良く起きちゃったわねと戻ってきた母さんは落ちつき払って膝をつくと、迷わず金色の赤ちゃんの方を抱き上げた。「イタチはサスケ担当ね」という言葉に、オレはすぐさま赤い顔して泣く弟の体と布団の間に腕を差し込む。そおっと抱き上げて胸に抱え込むと、大きく開けて高らかに声をあげていた口は一瞬でしぼみ、潤んで見上げたまっくろな目の中に、縮小サイズのオレが映っているのが見えた。「さすがイタチ、サスケのプロね」おみそれしましたとでもいうような母さんからの賛辞に、オレは誇らしく胸を張る。そんなの当たり前だ。なにしろこの小さな弟は、誰よりもオレに懐いているのだから。
「ほーら、ナルトくん。もうちょっとここで、ころんころんしててちょうだいね?」
濡れたオムツを手早く取り替えた母さんは泣き止んだその子のお腹のあたりをやさしくぽんぽんと叩くと、イタチ、母さんちょっと夕飯の仕度してくるわねと言ってまた立ち上がった。空色の目をきょとんとさせてずっと母さんの事を目で追っていた金髪の赤ちゃんは、去っていこうとする母さんを見て、慌てたようにくるんと体を反転させる。
「あ、寝返りできるんだ」
すっかりこなれた様子のその動きに感心すると、「そうよー、でもまだハイハイは、前に進まないハイハイしかできないんですって」と立ち止まった母さんが振り返って言った。「……前に進まないハイハイ?ハイハイって前に進むものじゃないの?」と訝しむと、「最初のうちはそうでもないのよ」と白い横顔が苦笑する。
「前に行きたくても手足の出し方がよくわからなくて、最初の頃はバックしちゃう子って結構よくいるのよ」
「へえ」
「イタチだってほんの一瞬だったけど、最初は後ろにさがってたんだから」
そうなんだ?と知られざる自分の過去に薄い感慨を抱いていると、金髪の赤ちゃん(どうやらナルトという名前らしい)は背中を向けた母さんを見上げるやいなや、ふぬぬぬぬ、と気合を込めて四肢をつっぱり、四つん這いのポーズをつくった。オレの腕の中で泣き止んだサスケも、そんな赤ん坊仲間の奮闘を興味深そうに見つめている。
居間から出て行く母さんに追いすがろうとでもするように、小さな体がゆらゆらと前後に揺すられていた。しかしそのまま前に出るのかと思いきや、つっぱった両腕にロンパースの膝小僧がつるりと滑り、べしゃっと飛び出たお腹が奮闘の甲斐無く床に落ちる。なるほど、これが話に聞く前に進まないハイハイ。確かに腕を伸ばしてしまった分だけ、さっきよりも後ろに下がっている。
「……サスケも降りる?」
話しかけられた声にぽかんとした表情になった弟を慎重に抱き直し、両脇を抱えそおっと赤ちゃんから少し離れた場所に座らせた。ハイハイを既にマスターしたサスケは、お座りだってとっくにお手の物だ。ぼおっとした顔でうつ伏せのまま震えている赤ん坊を見て、サスケは立っているオレに向かって「あー」と何事か訴えてきた。応えるようにその横にしゃがみこんで、「うん、なかなか上手くできないみたいだな」とひそひそ相槌する。
「サスケ、ナルトを応援してあげたら?」
「おーぇ?」
「そうそう、おててパチパチ。がんばれ、がんばれーって」
手本を見せるように何度か拍手をしてみせると、その音を聞きつけたのか突っ伏していた赤ん坊の顔がふいっと上がった。サスケはサスケでまだ上手く手を打つ事は出来なかったらしく、両腕をわきわきと動かしているけれど、それはさっぱり拍手の形態にならない。どちらかといえば、両手で大きくおいでおいでをしているようだ。それでも「うん、上手だ」と褒めてやると、弟は嬉しそうにまた両手を振りかぶった。全然うつ伏せになっている赤ちゃんの方を見てないし応援にもなってないような気もしたが、これはこれでサスケはかわいいからまあいいとする。
「うう――…っ」
サスケの応援が届いたのか、再び金髪の赤ちゃんは体を持ち上げ、四つん這いのファイティングポーズをとった。前へ揺れ、後ろに揺れる。もう一度前にちょっと揺れるとぐっと後ろにお尻を引いて、力を溜め込むようにそこできゅっと止まった。空色の目はまっすぐサスケを見定めている。
(――おっ、)
……と思った瞬間、びょん、と前に向かって赤ん坊がカエルのように飛び出した。追いつかなかった両手ごと、そのまま顔面からぐしゃりと潰れる。うわあ、これは絶対痛いなぁ……と慌てて手を差し伸べたがその子は気丈にも泣くことはなく、果敢にももう一度同じポーズに挑戦するようだった。呆気にとられたようなサスケだけがぽけっとした顔で、向かってくる青い視線を受け止めている。
――ズ、
先ほどの教訓を活かし、今回は膝に震える程の力を込めて、赤ちゃんは両の手のひらを下についたまま、前へ前へとスライドさせた。一旦体を伸ばしきると、今度は腕を支柱にして揃えた膝を前に引き寄せる。意表を突いた動きを生み出した彼にオレは密かに驚嘆した。すごい。ものすごく効率悪いけど確実に前には進んでる。しゃくとりむしスタイルだ。
――ズ、ズズ。
おそろしく時間は掛かっているけれど確かな前進をもって、金色の頭がまっくろな瞳へと間合いを詰めていく。まだ先程したたかに打ち付けた顎も赤いままだというのに、たいした根性だ。こんな全力で前に向かっていくだなんて、この子は余程うちの弟のところにまでたどり着きたいのだろうか。
おお、もうちょっとだと少なからぬ感動を持ちつつ見守っていると、最後の最後で力尽きたのかヒヨコ頭ががくっと落ちて、ぺしゃんこになった体がのびたように床で動かなくなった。指しゃぶりで彼の奮闘を鑑賞していたサスケだったが、さすがにちょっと気になったらしい。スムーズなハイハイ(弟はそういえばバック期はすっ飛ばしていきなり前進していたのだった)でナルトと呼ばれていた赤ん坊の前にまで行くと、横向きになった顔のほっぺたをぺちぺちと叩いたり、ふあふあの髪を物珍しそうに引っ張ったりし始めた。……多分あれは激励しているわけではなく、どちらかといえば生存確認を行っているのに近い。短い指が、小さな耳に容赦なく突っ込まれている。
「サスケサスケ、もうちょっと優しくしてあげないと」
「うー?」
「サスケの方が、ちょっとだけだけどお兄ちゃんなんだし」
「……ぅうー?」
首をかしげたサスケの横で、にわかに復活を遂げたナルトがぐっと体を起こした。
そのまま気を抜いていたサスケの胸に、飛び込んできた小さな体がしがみついてくる。
「――ふッ、やぁあああっ!」
「うわ、ちょっ……サスケ!」
かん高い悲鳴の後、ごん、と響いた鈍い音に焦ってにじり寄ると、まっくろな大きな瞳にみるみる涙が浮かび上がってくるのが見て取れた。分厚い膜となったそれがぼろりと端からこぼれ落ちると、あかいつつましやかな唇が嘘みたいに大きく広がり、「……うああああああん!!」という大音量の泣き声が洪水みたいにあふれ出す。
大声で泣くサスケを、押し倒したお腹の上から見下ろしたナルトも、大粒の涙が白いマシュマロほっぺをころころ転がっていく様を見ると、俄かにその痛みが伝染したようだった。ひいっく、と一回おおきくしゃくりあげると、ぽっこり膨らんだサスケのお腹に顔を埋め、ふるふると小さな肩を震わせだす。
「うわああああん、あああああん!!」
「……ぅっく、ひぃん、ひいいいん!!!
「か、母さん、母さーん!!」と慌てて呼ぶが早いか、泣き声を聞きつけた母さんがパタパタと駆けつけてきてくれた。重なって転がるふたりにひと目で状況を理解したのだろう。苦笑いした母さんはゆったりと、今度はサスケを先に抱き上げる。
「あらら、ちょっと『こぶ』になっちゃった?まあいいわよね、男の子だもの。大丈夫大丈夫」
そう言いながら薄い黒髪の後ろ頭をやさしく撫でさすった母さんは、まだちょっと半べそのサスケを肩に載せるようにしてしがみつかせると、うずくまって背中を波立たせているナルトをそっと片手で抱え上げた。胸元に抱え込むようにして抱き寄せると、ひぃん、と喉が引き攣ったような嗚咽がまた、押し付けた母さんの胸の奥から聴こえてくる。
「よしよし、泣かなくてもいいのよ。わざとじゃないものね?ナルトくんはサスケのとこに行きたかっただけよね。仲良くしたかったんだものね」
そう言ってふたりの赤ん坊を一緒くたに抱きかかえた母さんは、座ったままゆらゆらとやさしく体を揺らした。ゆりかごのようなその動きに、だんだんとふたつの嗚咽がおさまってくる。
ずるる、とずり落ちるように下に下がってきたサスケが、鼻先をあかくしたまま、おそるおそるといった感じでまだ顔を伏せたままのナルトの様子をうかがった。ナルトはまだ、母さんの胸に突っ伏したままだ。
「ほら見てナルトくん、サスケはもう泣いてないわよ?」
宥めるような母さんの言葉に、波のような動きで背中をさすられていたナルトは、そろりと顔を上げた。涙と鼻水でくしゃくしゃになった横顔で、おずおずとサスケを見る。相対したふたりの目はそれぞれ何も考えてなさそうだったけど、水分過多なその表面には確かにお互いの顔が映りこんでいるようだった。赤ちゃんの目ってどうしてあんなに綺麗なんだろう。磨き上げられた鏡みたいに、まんまるのポカン顔がどちらの瞳にも浮かんでいる。
サスケが涙でべとべとの、ナルトのほっぺたにぺちんと触れた。
うるんだ青い瞳がぱたりと一度、場面転換するようにゆっくりまたたく。
「よし、仲直りね。また仲良く遊んでらっしゃい」
泣き止んだふたりを丁寧に降ろして、母さんはまた台所へと消えていった。
再びひらりと寝返りをうったナルトに、ちょこんと座ったサスケがちょっとぶつかる。
ぐらりとしたサスケに(あ、また泣くか?)と一瞬身構えたが、ちょっとむっとしたらしいサスケは崩しかけたバランスを自力でどうにか整え、華麗なるハイハイで「すすすっ」とナルトから離れた。着いた部屋の隅っこでまたちょんと座り、(見たか!)とでも言うように這いつくばるナルトを見下ろす。
(わー……サスケ、それちょっと感じ悪いなぁ……)
愛らしい弟の意外にもダーティーな一面に若干頬が引き攣ったが、それでもそんな地味に高慢ちきなサスケも中々にかわいらしいものだった(自分でも既に自覚しているが、大体にしてオレは弟に骨抜きにされている)。置いていかれたナルトはそんなサスケに闘争心を炊きつけられたのか、ふぅぅっ、と鼻息を荒くして果敢にまた四肢を張る。距離はさっきよりも随分遠くなっていたがそれは彼の熱意を全く挫かないらしい。しゃくとりむしだった動きはサスケのお手本が刺激になったのかだんだんと四足歩行の哺乳類じみたものになっていき、目標地点であるサスケの居場所にたどり着くまでにはかなりの進化を遂げていた。さっきの襲撃を思い出したのか、近付いてくるナルトにちょっと緊張するサスケが、なんだか見ていて面白い。
「――あ、ストップ、ストップ!突撃ごっこはもうやめような?」
サスケに見蕩れているうちに再びナルトが飛び込みの体制に入っているのに気が付いて、慌ててオレはふたりの間に入った。折角泣き止んだのに、また泣かされてはかなわない。両脇に手を差し込んで止められると、ナルトのおしりがぴょこぴょこ揺れて、もみじみたいな手のひらは届かなかったサスケに向かって、開いたり閉じたりを繰り返した。引き留めたオレをちょっと振り返り、濡れた桃色の唇で「ぶうぅ」と不興を訴える。
尖ったくちばしに苦笑しながらゆっくりと抱き上げると、やはりナルトはサスケよりも随分と軽く感じた。
体が小さいからだろうか。でも全体的にサスケの方が、ふくふくとした体つきをしている気がする。
「おまえ、そんなにサスケのことが好きなの?」
「うふぅ?」
「……そっか。じゃあオレとおまえは仲間だな」
じっと顔を覗き込んでそう告げたが、せっかくの同盟宣言もナルトにはさっぱり通じていないようだった。足付きのロンパースに包まれた足が、パタパタと宙を泳いでいる。
それでも高い位置で目線が合ったのが嬉しいのか、ほわほわほっぺがふにゃっとゆるみ、空色の目が嬉しげに細められた。
ちょっとぺたぺたした手のひらがオレに伸ばされる。ぎゅ、と掴まれた髪のひと房にニヤリと笑いを返してやると、きゃああ、と明るい声がこぼれた。
「ねえ母さん、オレも写真撮っていぃー?」
台所に向かって声を張り上げると、オレの足元にまとわりついていたサスケがちょっとビクッと驚いたように身じろいだ。
ゆっくりと下に降ろしたナルトが、またサスケにじゃれついている。
台所から流れ着いた「いいわよー」の返事に、オレは机の上に出しっぱなしになっているカメラを慎重に手に取った。
「……え?」
「ああイタチ……お帰りなさい」
「母さん、ナルトは?」
お稽古から帰宅した途端、ベビー布団に浮かぶお尻がぽこんとひとつに減っているのを発見したオレは、慌ててサンダルを脱ぎ捨てると手も洗わずに居間へ駆け込んだ。今取ってきたばかりの写真館の袋がカサカサ鳴る。白いシーツに覆われた布団にはいつもと同じように弟がひとりころころと遊んでいて、帰ってきたオレに気が付くと嬉しげな顔で「あぁー」と笑った。
「……ナルトは?」
もう一度尋ねると、母さんは困ったような切ないような、とにかく寂しげな笑顔を浮かべて「……帰っちゃった」と答えた。
「もう?オレが帰って来るまではいるって言ってたのに」
「……あちらの事情で、お迎えが早くなっちゃってね。さっき引取りに来られたの」
ええー……?と落胆をあらわに膝を着くと、そこにサスケがすがりつくようにくっついてきた。昨日目覚しい進歩を遂げたナルトと遊んでいるうちにつられて上達したつかまり立ちで、にじにじとオレの足を登ってくる。
「そんなぁ……写真、せっかく取ってきたのに」
現像したばかりの写真を取り出して、オレはふかぶかとため息をついた。サスケとナルトと、三人で一緒に見ようと思ったのに。今日帰ってしまうナルトに、お土産に持たせてあげたかったのに。
どれどれ、私にも見せて?と後ろから包み込むように母さんの腕が写真を取った。背中にあったかくてやわらかい体温を感じる。「うん、よく撮れてる」と言った声が、肩の上でやさしく響いた。
「かわいかったわよねー。サスケと並んでると、なんだかセットみたいだったわね」
「……うん」
「このアップの写真なんて、ほんとかわいい。クシナにも見せてあげたかったなぁ……」
「あ、じゃあ母さん、これナルトのお母さんに渡してあげてよ」
「――え?」
「母さんのお友達なんでしょ?お迎えにきたってことは、もう遠いところから帰ってきたんだよね」
さっと緊張の走った腕に、オレはこれが触れてはいけない話題であったことに気が付いてしまった。
忍里では、もう二度と帰ってこない親を持つ子も珍しくない。
自分が子供であるのが悔しいのはこういう時だ。赤ん坊みたいに母さんにくっつくのが素直に嬉しいくせに、硬くなった肌ひとつで察しを付けてしまえる自分の、中途半端な賢さが恨めしかった。多分オレがもっと大人だったら、最初からこんな質問しなかったはずだ。それかもっと幼なかったら、母さんのつくり話に無邪気にのれていたのに。
「……あのね、イタ」
「――ねえ!じゃあさ、これいつか、サスケからナルトに渡してもらおうか」
思い切るように口火を切った母さんに、オレは無理矢理明るい声を被せた。
「サスケに?」と訝しむ母さんに、こしらえたにこやかな笑顔でこっくり頷く。
「きっとサスケとナルト、同い年ならアカデミーでも同じクラスになるだろうし。そしたらサスケから渡せるでしょ?」
……そう。そうね……と無理矢理納得したような母さんはちょっと迷っていたが、結局はオレの笑顔にのることに決めた。じゃあそれを入れておく封筒が要るわねと言いながら、そっとオレの背中から離れていく。
「イタチ、ほらこれ。封筒あったわよ」と戻ってきた母さんから封筒を受け取りながら、オレは手元にある写真に再び視線を落とし、そこに映った青空の瞳を見つめた。甘い匂いのする、金色のくすぐったい髪を持った子。サスケよりも軽かった体を、母さんの胸にしがみつく小さな握りこぶしを思いだした。
お母さんのいないあの子はこれからどんな子に育つのだろう。
おいしいごはんを食べさせてもらったり、ぬくぬくのお風呂に入れてもらったり、うすピンクのかいがらみたいなやわらかな爪を、丁寧に切りそろえてもらえたり。かわいいかわいいと大騒ぎされて写真を撮られまくったり、意味もなくぷにぷにのほっぺたをつつき回されたりすることがあるだろうか。
「ありがとう母さん」
戻ってきた母さんから手渡された封筒に写真を入れながら、オレはいつかくる未来に祈りを込めた。
どんな子に育ったとしても、オレや母さんやサスケと過ごした時があったことを、いつの日かナルトが知ってくれたらいいなと思う。
しゃくりあげる背中を撫でてくれる手があったことを、泣かしたり泣かされたりしあった子がいたこと、仲間だなと言われた日があったこと。きっと彼は忘れてしまうだろうけれど(これは仕方ないだろう、オレだって0歳の時の記憶はない)、そうしたらこの写真がその証拠になればいい。
赤ん坊だった自分を抱き上げてくれた人達がいた事を、知ってほしい。
(――あ。宛て名はなんて書こう)
封をしてひっくり返すと、封筒には紺のインクで宛て名欄が印刷されていた。そこがしろじろとからっぽなのがなんだか寂しくて、オレはほんの少し悩む。
……「しんあいなるナルトさま」?
「ナルトくんへ」?
それとも「ナルトへ」、だけでもいいだろうか。なにしろオレ達はサスケ同盟を結んだ仲なわけだし。
(まあいいや。ここは未来のサスケに委ねよう)
裏返した差出人欄に「うちはサスケ」という名前だけ書き込んで、オレは持っていた鉛筆を置いた。
ちゃんとサスケは渡してくれるだろうか?それにその時サスケは、あの子にとってどんな存在になっているんだろう。ナルトの事を、なんと呼んでいるんだろう。
なかま?
ともだち?
……まさか、こいびとってことはないだろうけれど。
「……な、サスケはどう思う?」
きょろんとつぶらな瞳を開けた弟は、急な問いかけにがんぜない顔をかたむけた。
けっこうあの子、見どころあったと思わないか?
あの顔面強打にもへこたれなかったとこなんて、本当に0歳児にしては見上げた根性だった。意表を突く発想力もありそうだし、多分ものすごいがんばり屋だ。
それよりなにより、あの子はサスケとすごく仲良くしたそうだった。
オレは一番、そこが気に入ったな。それにすごく、かわいい顔で笑うし。
きっとみんなに好かれる子になるだろう。サスケとも絶対、また仲良くできるに違いない。
――ナルト。
いつかまた、会えたらいいな。
「うちはのものって、ここにあるので全部?」
ようやく仕分けの目処がついてきたところで、軍手を外したナルトがそこらじゅうに広げては積み直された資料を見渡した。口に巻いたタオルのせいで、「ここにあるので」は「ほほにあるのへ」に聞こえる。
「多分な。里で管理していた分は、とりあえずこれで全部だと聞いている」
汗でべとついてきたシャツにちょっと風を入れながら腰を伸ばす。外は秋晴れだ。空気を入れ替えたおかげで最初のジメジメ感は随分と払拭されているが、薄暗い倉庫の中は10月とはいえ少し動いただけで汗がふき出す。
ペインの襲撃で全てが消失したと思っていたうちはの遺産が、三代目の手によって特殊な倉庫に封印され、今尚保管されているというのを五代目から知らされた時、オレはただただ驚いた。
不動産のようなものは里の所有にされてしまっていたが、文献や資料のようなものは全てが雑多に集められ、倉庫に収容されているのだという。一族最後の生き残りとしてそれを精査し、仕分け、最終的にはその保管・管理までするようにという役目を、オレは五代目から命じられた。里に戻ってからまもなく一年が経つかという、つい先月のことだ。
……ようやく一年。抜け忍であるオレに里からの信頼を再び預けてもらえるようになるには、当然必要な時間だったのだろう。むしろよく一年で、その許しが出たものだとさえ思う。
「うわー、首筋がじゃりじゃり。それに目がゴロゴロするってば」
素肌を出したままのTシャツの襟ぐりあたりを気にしながらナルトが言った。確かに重たい葛篭を動かす度に、舞い上がるホコリで目が痛い。マスクよりもゴーグルのほうが必要だっただろうか。
五代目の言いつけで、うちはの資料を片付ける作業をしているというのをナルトに言わなかったのは、別に秘密にしようと思ったからではない。とりたてて意味があったわけでもなく、ただ単に言う機会がなかった、ただそれだけだった。
なのにここ数日蜘蛛の巣とホコリにまみれて帰ってくるオレがどこか不自然だったのだろう。
オレに関してだけは本当に舌を巻く目敏さの同居人は、昨夜帰宅してすぐ風呂へ直行しようとしたオレを捕まえると、妙な迫力で詰め寄ってきてこの任務の事を聞き出したのだった。その上あともう少しでその作業が終わると知るやいなや、次の日が休暇だったのをいいことに、何を思ったか「オレも手伝う」などと言いだしたのだ。
「せっかくの休暇なんだからお前の好きに過ごせばいいだろう」とオレは言ったが、それに対して「わかってるって、だからオレはオレのやりたいことやって過ごすんだってば!」と意味のわからない言い返しをしたナルトは異様なやる気を漲らせ、今日は朝からオレに張り付いて来たのだった。まったくもって、意味不明な奴だ。なにもこんな日に、わざわざ自らホコリまみれになる事もないだろうに。
「……お前、一旦帰ってシャワー浴びてから行ったほうがいいぞ。一応今日の主役なんだし」
夕方からの予定を思い出して、オレは進言した。そもそもこいつが今日休暇だったのも、里からバースデー休暇なるものを貰っていたからだ。夜にはサクラ主催の同期達によるささやかな(……といいつつ顔の広いこいつが出張ればやたら人が集まってくるのは目に見えている)誕生日パーティが、行きつけの居酒屋で開催される予定だった。まったく、この里の連中ときたら相も変わらずお祭り騒ぎが好きな奴ばかりなのだ。正直、めんどくさい。実はこの作業の進み具合によっては、今日の宴会には遅れて参加する位でもいいかとオレはこっそり目論んでさえいた。別にオレがいてもいなくても、場の盛り上がりに関係はないのだ。誕生日といっても、もうすでに今朝起きた瞬間から、こいつとは顔を合わせているわけだし。
「そっか、じゃあ頑張って作業進めねェとな。サスケも一回家帰るだろ?」
「いや、無理しなくていい。オレは遅れて行ったっていいんだし。お前先帰れよ」
素っ気なく答えてから再び屈んで作業を続けようとすると、頭の上から「えー、でも今日は一日中サスケと一緒にいたいのに」というなんだか甘ったれた声がした。「あわよくばパーティはサボろうとか思ってんだろ?」という指摘に、くだらない事にばかり勘が働くこいつに舌打ちが出る。
「なーなーなー、やっぱ一緒にいこうぜー?オレってばやっぱ、サスケにも来てもらいたい」
「別にいいだろ、どうせ家でまた会うんだし」
「でもみんなに俺らのラブっぷりを見てもらいたいんだってばよ」
「……ほざけ。やっぱ絶対行かねェ」
なんのてらいもなくそんなしょうもない理由を述べてみせた自称・オレの恋人(あくまで自称だ、オレは認めない)にげんなりしつつ、前に向き直ると、積み上げられた資料のあいだから端がちょっと丸くなった封筒が飛び出しているのが見えた。資料の方はなんだか見覚えのある表装だ。うちの戸棚に並んでいたものと、背表紙が似ている。
「おっなにこれ、なんかすげー立派な本だな。もしかしてすごい禁術とか書かれてんじゃねえの?」とにわかに盛り上がってオレの手にある資料を覗き込もうとしたナルトを邪険に払い、オレはその間に挟まれた一通の封筒を抜き取った。
宛名は無い。――なのに、差出人のところには何故か自分の名前。
黄ばんで古くなった表面には、うっすらと色が透けて見えている。
「なんだ……写真?」
差し込んでくる限られた日差しに軽く透かして、その長方形の形状を確認したオレは、まだしつこく資料に興味をみせているナルトに追い払うようにその革表紙の冊子を押し付けた。おお、み、見ていいのかってば!?と色めき立つナルトに「いいわけねェだろ、勝手に見んなよ?」と釘を刺し、封筒の裏に貼られた封印を取る。ふと視界の端にこっそりと資料を開こうとしているナルトがちらつき、牽制をするべくその妙なへっぴり腰に蹴りを入れた。「ぁだっ!」と叫んだナルトは大袈裟に腰を歪め諦めたように資料を置くと、顔と頭を覆っていたタオルを一旦外して、今度はオレの開けようとしている封筒に興味を移してきた。肩の上に乗せてきた顎がごりごりと痛い。ささやかながらさっきの蹴りの仕返しをしているつもりなのだろう。
全くいつまでたってもガキくせェなこいつはとうんざりしつつ、劣化した糊を剥がして封筒を開ける。
「――は!?」
「――え、うそッ!?」
封筒の中から出てきたありえない画に、しばしふたりで絶句した。
「ご、合成?」
という声に、
「いやいやいや……そりゃねーだろ……」
と間の抜けた答えが口をつく。
風化し始めた封筒から出てきた一枚の写真には、ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうのようになりながらも笑顔を並べる、ふたりの赤ん坊が写っていた。片方は黒髪、片方は金髪。金の睫毛にふちどられたつぶらな瞳は明るい青だ。そして極めつけがその頬。殆どまだ日焼けをしていないからだろう、現在の彼よりも随分と色は白いけれど、そのやわらかそうなほっぺたには見間違えようもないほど特徴的な、ささやかなヒゲがある。
「どーゆーコトだってばよ……オレってばサスケんちにいた事あったのか?」
「そんな……ないだろ、そりゃ」
「でもじゃあこの写真はなんだよ!?」
「知るか!つかなんで差出人がオレになってんだ、気持ちわりぃ」
「えっ、問題なのってそこ!?」
「当たり前だ。こんな写真撮った覚えも封筒を用意した覚えも全くねぇよ。大体なんでオレよりもお前の方がでかく写ってんだ。なんかオレ画面から切れてるし。気に入らねェ」
「だってそれは……オレの方が主人公だからさ……」
「はァ?テメエが主人公だなんて一体いつ誰が決めたんだよ」
裏書きの文字をあらためて見直して、つらつらと記憶を辿ってみた。……やはり、身に覚えがない。
少し薄れてきている鉛筆書きの文字。子供の手によるものなのだろうか、とめはねの処理にまだ甘さが感じられる。兄さん?と一瞬思ったが、確信は持てなかった。オレの知っているあの人の文字は、もっと大人びた端整なものだけだ。じゃあやっぱりこれはオレが書いたものなのだろうか。いやしかしこんなに記憶にないというのに、それを認めるのもなんだかなあという気もする。
うわーうわー、オレってば超かわいい!!サスケはほんとちっせー頃からまっしろだな!やーしかしマジほんとオレかわいい!!と騒ぐ馬鹿が目に入った。
封筒に入って、しかも差出人名まで書かれていたということは、もしかしてこれは誰かに渡すために用意されたものだったのだろうか。宛先はないけれども、この場合写真に写っている人物に渡そうとしていたと考えるのが妥当だろう。
……それに。
なんか勝手に自分の名前が書かれた届け物って、このまま持ち続けてんのはちょっと気味が悪い。
「――おいナルト」
「ん?」
「お前、それ持ってっていいぞ」
高く掲げた写真を舐めまわすかのように何度も眺めてははしゃいでいる男に「ほら、これも」と封筒も持たせると、ゆっくりとこちらを向いたナルトは、阿呆みたいに驚いた顔をしていた。
ぽっかり開いた唇と写真を持つ手が、ふるふると震えだす。
……マジで?いいの??と確かめる目があまりにも真剣過ぎて、つい「お、おう、いいぞ?」と答える声が気圧される。
「……サスケェ……」
「な、なんだよ」
「オレ……オレってば、すんげー嬉しい!!!」
そう叫ぶといきなり飛びかかるように抱きついてきたナルトに押し倒されて、不意を打たれたオレは思いきり後ろにひっくり返った。
後頭部に鈍痛。
ごん、という鈍い音が、耳の奥に響く。
「いっ……ってェなァ、いきなり何しやがる!!」
「だってさあ、オレってばサスケとふたりきりで撮った写真て一枚も持ってねーし、オレの赤ん坊の頃の写真てのも見たことなかったし、しかももれなくこんな激萌えサスケちゃんまで付いてくるなんてこんな嬉しいプレゼント他にないってばよォ!!」
キャッホォォォイ!!とオレの腹の上で喜びの悲鳴をあげるナルトに呆気に取られていると、頭上を渡る光の筋が視界に映った。バタ足で喜ぶナルトのせいで、さっきよりも更に空気中のホコリが増えている。チンダル現象によって浮かび上がった光の微粒子は、さながら大気に踊る金粉のようだった。はしる光道は迷う事なく薄暗かった倉庫の奥を照らし、気持ちのいい10月の風が開け放った窓から抜けていく。
「ありがとなサスケェ!」
「いや………うん、まあ、よかったな」
細められた碧眼があんまり嬉しそうで、オレはつい釣られるようにして、その金色の髪にくしゃりと指を絡ませた。
やわらかい。あたたかい。……ちょっと乾いて甘い、ホコリと太陽の染み込んだにおい。
ナルトのにおいだ。
「なーなー、じゃあ今夜オマエ来ないなら、代わりにコレ持ってってもいい?」
うっとりと写真を眺め続けていたナルト(そろそろ腹の上から退いて欲しい)にふと上目遣いで尋ねられて、オレはちょっと首を傾げた。そんなの持ってって何にするんだ?と訝しむと、もちろんみんなに見せびらかすんだってばよ!と金髪のアホ面が得意げに胸を張る。
「見せびらかすって」
「だってこれはオレとサスケの愛の歴史が今知られているよりも更に長かった事を証明する、重要な証拠写真だってば」
「――おい、ちょっと待て、やっぱそれ返せ!!」
ニマニマといやらしい笑いを浮かべるナルトに慌てて手を伸ばすと、抜かりなくそれを避けたナルトが間髪入れず顔を上げ、伸ばした首で油断しきっていたオレの唇を掠め盗っていった。
唖然とするオレを見て、まんまと写真を懐に入れたキス泥棒がニヤリと笑う。
「ホント、ありがとなサスケ。やっぱオマエがそばにいてくれんのって、最高!」
空は晴天。うろこ雲が日を透かしてぴかぴかしている。
ポカンとしたのち、徐々に赤くなるオレを映している澄んだ瞳も、晴れわたる青だ。
【end】
コミックス53巻の扉絵からの妄想でした。ロンパースLOVE!
ナルトお誕生日おめでとう! しあわせになれ!!! (2013.10.10)