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貫かれた衝撃に、弓なりに反った背中がそのまま固まった。
息を詰めた気配に気が付いた男が、大丈夫かと耳元で囁く。
……そもそもが受け容れるべき器官ではないのだから、大丈夫な訳がないのだけれど。
それでも毎回律儀に尋ねてくる男に、いつだって無言で頷いてしまう。
優しさと手酷さが入り混じった感覚。
ほんの少しの悲しみを運んでくるそれが、俺は決して嫌いではない。

  * * *

…………姿の良い男だな。
陽光降り注ぐ庭園の葉の茂る樹木にもたれ掛かり、サスケは少し離れた所で国の要人達と歓談するナルトを眺めた。
大名主催の昼食会に招かれるのも、すっかり定例行事となった。火影となったナルトの補佐として、あちこち付いて回るようになって幾年か経つが、この義理と追従ばかりが飛び交うこういった集まりが、どうにも好きになることができない。それでもいつだって傍に置きたがるナルトに従うような形で、嫌々ながらもサスケはグラスを持って会場の隅に立っていた。
(……まあ、護衛するなら近くにいるに越したことはねえか)
補佐といいつつ護衛も兼ねているサスケは、自分に言い聞かせるように思う。大戦後どの里からも信を置かれているナルトだったが、無頼の輩も多いこの忍稼業、名を上げる為だけに命を狙ってくる者は少なくなかった。まだ日の高い時間であっても気は抜けない。
いつものように四方に注意を払いながら、再び白い羽織の背中に視線を戻した。
曇りのない金髪が日を浴びて眩しい。気持ちよく伸びた上背は、男の気質をそのまま表しているようだ。笑顔を向けながらすいすいと群れる人々を縫って動く様には無駄がなく、羽織の下のその身体に俊敏さと豪胆さを同時に兼ね備えているのが伺える。
ふとその視線を、艶のある長い髪が遮った。緋色の指先が、淀みなく流れていた肩を遠慮がちにつと引き止める。――あれは。

(確か、大名の孫娘だとかいったか)

何度か見たことのある姿に、普段他者に無関心なサスケでもすぐに思い出した。こういった席では必ず見る顔だ。それも、必ずナルトに話しかけてくるのだから、尚忘れがたい。

(……まあ、悪かねぇけどな)

艷やかに彩られた唇が、蝶のように柔らかく動くのをぼんやりと眺め、素直にそう思う。丹念に櫛られたであろう長い黒髪は絹の滝のようだ。細心の注意を配りながら施された化粧や、頬紅などではなく娘の熱意によって赤く染められた清らかな頬からも、娘が若き里長にご執心なのは明らかだった。男というのはある程度の年齢になると顔のデザイン云々よりも、その男の持つ空気のようなものに女を惹きつける要素が出るらしい。無愛想なまま成長したサスケと対照的に、生来の明るさに自信と落ち着きを加えたナルトの周りには、ここのところいつだって色めき立った女達が取り囲むようになっていた。
知ってるか?と鼻白みながらサスケは胸の内で呟く。世間では丁度、俺等位の奴を捕まえて『適齢期』って呼ぶらしいぞ。
側近達には否応なく知られてしまっていても、流石におおっぴらに恋人宣言するわけにもいかないから、若く男振りに優れた現火影は目下結婚したい独身男性として数多の女達からの注目を集めているらしかった。そうでなくとも、元々老若男女に好かれていた男だ。自然といえば、余りにも自然な成り行きだと言えるのかもしれない。
呼び止められたナルトが振り返った。髪と同じ色の眉が柔らかく弧を描き、その瞳が細められる。精悍な口許が緩められ、娘に向かって親しげに何事か答えるのが見えた。まったく、騒ぐ方も騒ぐ方だが、当の本人にも罪はあるのだ。やたらめったら笑顔を大安売りしやがって。サスケが面白くもない気分で見守っていると、囃し立てるかのように娘の周りにいた何人かが声をあげた。似合いの二人。そんな事でも言われているのだろうか。困ったような顔をしながらも、ナルトは笑顔を絶やさない。淡く微笑む様は、大人の男性としての余裕さえ感じさせる。

(……ったく、あのタラシめ……)

チリ、と胸を微かに焼く痛みに、サスケは傾けたグラスの影でうんざりと息を吐いた。この感覚とも、もう随分と長く付き合ってきた仲だ。こんなことで逐一嫉妬なんてしていたら、あんなヒトタラシの相手は務まらない。
誰とも話さないで。笑いかけないで。
火影となり、立場も責任も持つようになったナルトにそう言えてしまえればどんなに楽だろうかと苦々しさを噛み潰しながら思う。独り占め、なんて端から出来るわけがなかったのだ。誰よりもあの天を映した青に魅入られている自分には、嫌というほどそれがわかっている。

(――それでも)

遠い昔、彼が自分だけを追いかけて来てくれていた日々の事を思い出す。
もう一度、ああして全ての時間を自分だけに注いでもらえたら……


『――サスケさん!!』
突然耳に嵌め込んだイヤホンから、急いた様子で短く敵襲を告げる声が飛び込んできた。会場警備に就いていた部下の掠れた声に、サスケは自分が失念していた事にやっと気が付く。一瞬の隙を悔やむ間もなく、何処からか音もなく投げられた刃物がチカリと掠めた。舌打ちを落としつつ後ろに差した得物を抜き放ち、迷うことなく娘と歓談していたナルトの前に飛び出した。
弾かれた刃が勢い余って地に突き刺さる。
続け様に放たれる煌めきを弾き止めながら、サスケは注意深く辺りを見渡した。どこのどいつかは知らないが、こんな真昼間から衆人目視の中やってやろうなんてのは余程の自信家か大馬鹿のどちらかだろう。それでもこれ以上の騒ぎは里の信用のためにも有難くないと判断し、一気に片を付けてしまおうと静かに宙を睨む。その瞳が黒から赤に転じようとした時、背後で甲高い悲鳴が上がった。

火影様、と短く叫んだ娘がナルトに身体を寄せたのが、振り返らずとも気配で判った。きっと今にも羽織の内側に匿ってくれと言わんばかりに、その華奢な肩は震えているのだろう。悲鳴なのか?嬌声なのか?男の腕に縋りつきながら叫ぶ声はいっそ享楽的にすら聴こえる。そりゃそうだろう、今その身を寄せているのは今や忍界最強と謳われる男なのだから。絶対的な庇護の中から覗く恐怖というのは、恐ろしいけれどもどこか他人事なものだ。
大丈夫だから、と落ち着き払ったナルトの声がする。長い腕が自然な動きで娘の身体を庇うように伸ばされた。その動きに許しを得たと思ったのだろうか、娘の細い腕が頼もしい背中に回されるとそのままナルトにしがみついた。白い頬が羽織の胸に押し付けられ、柔らかく潰れる。袖から覗く日に焼けた腕に、長い髪がさらさらと流れ落ちる。

ゆら、と視界が赤く揺れた気がした。血が沸騰して目眩がする。
ざわざわと騒ぐ胸が抑えられず、喉に何かが詰まったかのように気分が悪い。
うずくまってしまいそうになるのを叱咤してなんとか前を見据えるが、頭の中がどうにも纏まらず集中できない。瞬間、耳元を風を切り裂く音が走り抜けた。冷たいと思ったのは一瞬で、次いでじわと熱いものが溢れ出るのを感じる。視線が揺れた隙を狙い放たれた刃物は、サスケの耳の端を割って後ろの卓に突き刺さった。悲鳴が波紋のように広がり、宴は崩壊寸前となる。
皮膚が裂けた痛みに、胡乱になりかけた脳が目を覚ました。軽く頭を振って反撃に転じようとした矢先、面を付けた数名の黒い影が姿を現す。『すみません、これより追撃します』と今度は先程よりも落ち着いた声が再びイヤホンから聴こえると、現れた暗部に追い立てられるかのように、やや離れた木の影から影が飛び退くのが見えた。それを見届けると、深く息を吐きつつサスケは力を抜いて立ち直した。
一瞬の襲撃は、中弛みしかけていた宴にとってはちょっとしたカンフル剤になったらしい。徐々に会場から緊張が抜けていき、人々は各々興奮した様子で再び談笑し始めた。振り返ると、黒髪の娘は未だナルトにしがみついたままだ。離れようとしない様子の娘に、困ったようにナルトが笑う。そこにはっきりとした拒絶の色はなく、宥めるように何事か囁いている。
薄く唇を開いて、真剣な様子で背の高い男を見上げる横顔は、サスケの目にも美しく映った。
それはまるで口付けをせがんでいるようにも見えて。軋む胸をやり過ごしながら、サスケは誰にも悟られないよう小さく舌打ちをした。



「どうした?今日なんか変だったな」
二人きりになるとすぐに、伺うような視線と共に問いかける声が投げられた。後ろ手に玄関のドアを閉めると、男は途端に恋人の顔になる。
「別に。ちょっとミスっただけだ」
ぞんざいに答えると、ちょっと見して、と大きな掌が伸びてきた。髪を梳かれ、耳にそっとかけられるとまだ癒えていない裂傷が現れる。
「……ちょっとミス、ねえ……」
眇めるように傷を検分していたナルトがふぅんと呟く。確認するようにつん、と指先で固まりかけている血の塊を触られて、サスケは思わずその手を払い除けた。
「……っ、触んな、バカ」
「もしかして、ちょっと妬いてた?」
ニヤニヤしながらそんな事を言う金髪頭を横様に思い切り叩いた。スパーン!と子気味良い音がする。背を向けて着替えに向かおうとすると、待って待って、と腕を掴まれる。
「くだらねえ事言ってんじゃねえ。そんな事より暗部の奴らに警護の事ちゃんと言っとけよ」
「うん、まあ、それはまた追々」
そんな事よりもこっちの方が重要事項だってばよ、と言いながら後ろから回されてくる腕。
有無を言わせない力で拘束されると、再び「妬いてたんだろ?」と囁かれる。
「……知らん。いいからとっとと離しやがれ」
「なんかさ、今日のあの子、ちょっとサスケに似てね?」
抱え込まれた腕の中、うんざりした気分で黙り込む。確かにサスケもそう思ったし、だからこそナルトが彼女を気に入っているのがわかってしまったのだが。それを認めるのもうっとおしく思えて、悪態で返す。
「……うっぜえ、お前……」
「オレかなりどストライクなんだよなー」
「よかったな、じゃあ早いとこ彼女んとこ行ってきたらどうだ?」
「あ、やっぱり妬いてんじゃん」
ほらほらぁ、とニヤつく男に心底うんざりする。しつこさには定評のある現火影だが、こういう場面でも遺憾なく発揮されるそれはどうにかならないのかと切実に思う。「お前、そんなに俺を妬かせてどうしたいんだ」と諦めたように言うと、「別に、どうもしないけど……ただオレが嬉しいってだけ」と返してきた。……人の気も知らないで。内心で吐き捨てながら、ヘラヘラと罪のない顔で笑い続けるナルトを認めると、サスケは本気で腹がたってきた。
少し頭を傾げ、眇めるような目つきでナルトを見上げる。手酷くやり返してやりたいという衝動に、溜め込んできた言葉がこみ上げてきた。決壊寸前の言葉達に、すでに唇は止められない。

「……じゃあさ」
「ん?」
「俺がもし、火影やめてくれって言ったら、どうする?」

(――ああ、ずっりいよなあ……)
至近距離で青い瞳を覗き込んだ。歪んだ眉が悩んでいる。
今こそお得意の笑顔を大盤振る舞いしたらいいのにと、呆れたようにサスケは思う。
いつだって自信満々で、誰にでも優しさを振りまくくせに。
こんな時にだけ、そんな弱りきった顔をするのは本当に酷い。
嘘でも「いいぜ」って言っときゃいいのに、なんで言えねぇのお前。
……騙されたフリくらい、してやったっていいんだぜ?

「……ばーか。嘘だ、ボケ」

本気で答えようとしてんじゃねえよ、ウスラトンカチ。
そう言って、サスケは金糸のかかる額を思い切り小突いた。「…へ?」と呆気に取られたかのようにぽかんと口を開いた間抜け面に幾ばくか溜飲が下がる。笑ってしまいたくなるほど予想通りの顔をした男に、口の端をあげてみせた。
……どうしようもなく馬鹿で、律儀で、残酷なほど優しい俺の恋人。
答えなんて、聞かなくてもわかってる。
ちょっと、仕返ししたかっただけ。本当はこんな事、訊きたかった訳じゃないんだ。

「……っ、サス……」
「も、いいから……」

――しようぜ?
言いかけた言葉を打ち切って誘った声は、不本意にもほんの少し揺れてしまいそうだった。
拵えようとした笑顔は思ったほどうまくいかず、それを誤魔化そうと手を伸ばすと何か言いたそうな金髪頭を引き寄せた。軽い抵抗を受けて、少し気分を害する。それでも腕に力を込めると、今度は吸い寄せられるようにナルトの顔が近付いてきた。
勢い込んで重なった唇の中で、かちりと歯がぶつかる。歯列をこじ開けて舌を差し込み口内を舐め回せば、誘われたナルトの舌にいつの間にか捕らわれ逆転された。何度も何度も角度を変え吸い込まれる唇。余裕のないキスに、挫けそうになっていた自尊心がぬるく撫で付けられる。

「サスケ、サスケ……」

短い息継ぎの合間に呼ぶ声を聴く。熱っぽい掌に愛撫され、正直な身体が火照り出す。
ごめん。好きだ。大好きだ。
譫言のような告白を溶けていく耳で受け止める。
――そんな事を言いながらも、何一つ手放さないくせに。
痺れだした頭の中、ずっと抱え続けている小さな確信を自嘲する。
自分がいなくてもこいつは笑えるのだということを、俺は嫌になるほどよく知っている。
……何もかも全部を捧げてしまったのは、俺の方。
そんな俺を時々確認しては、心底嬉しそうに笑うこいつは、本当に酷い男だと思う。

……向かい合わせに座ったまま、ゆっくりと腰を落とした。いつもよりも深い所にまで侵入する異物感に、息が詰まる。硬い肉に包まれた肩に額を乗せ、迫る苦しさを逃がす。
大丈夫?と小さく尋ねられたが、圧迫感に声も出せなくて。無言のままこくりと頷くと、労わるような動きで揺さぶりが始まった。
縋る先が欲しくて、脱ぎ捨てられたままの白い羽織を握り締めると、上から大きな掌に包まれる。ぬるい動きで解された指が、そのまま日を浴びた首筋へと持っていかれた。
ひゅうひゅうと風を切って浅い呼吸を繰り返す喉を、指で辿られる。渇く口内に差し込まれた舌の熱さに溜息が出る。
挿入の衝撃に一度萎えた性器を節榑立った長い指に絡み取られれば、堪えきれなくなった喘ぎがとめどなく溢れ出た。くちくちと淫靡な音を立てて涙を流す先端を容赦なく無骨な掌で撫で回されると、他愛なく果てが見えてきてしまうのが情けない。勝手を知った手に扱かれて膨れ上がった欲の象徴を、青い瞳がじっと見詰めているのを感じ、羞恥と快感で頭がおかしくなりそうだった。

「ふ…あ……ナル、トォ……!!」

もう、と思わず口にすると、まだ早いってと色のない唇が緩く笑う。
徐々に激しくなる律動にがくがくと顎が震える。
生々しく裂けたままの耳朶を宥めるように舌先でなぞられると、走る痛みに思わず目の前の金髪を掴みこんだ。弱くない力は彼の頭にもそれなりのダメージを与えているだろうに、構うことなく耳に舌を差し込まれる。
攪拌される粘液の音と荒げた呼吸音だけが耳をつく。どくどくと暴れる心臓が抑えきれない。
崩れ落ちそうになる上体が鍛えられた腕に抱きとめられた。
目の前にきた喉仏に舌を伸ばすと、小さくナルトが呻く。
「…っ……んな、煽るような事すんなってば……」
そのまま後ろに倒され、片足を肩に担ぎあげられると容赦ない抽挿が始まる。
投げ出された掌を、汗で湿った掌で縫い留められた。繋がった場所が熱くて堪らない。なのにもっと熱が欲しい。
白く白く焼かれていく脳髄。
ぼやけていく視界の中で、快楽に表情を歪ませるナルトを捕らえる。笑う余裕のなくなったらしい男に、どうしようもなく独占欲が満たされる。同じ温度で溶け合う掌に思わず希う。どうかどうか隣にいるのは俺でなくても幸せになれるということに、彼が気がつく日が永遠に来ませんように。信じてもいない神に俺は祈る。
……決壊する本能。
あとはもう、祈りさえも届かない。


――快感と喪失感との狭間で、いつか来る永久の別れを想像してみる。
どうかしあわせに、なんて絶対に言うものか。
泣いて、泣いて、みっともないほど取り乱して、動かなくなった俺に縋り付け。
この先待っているであろう幾多の出会いの中で、近付いてくる全ての者と俺を比べるといい。
舌先で飴玉を転がすように。
俺のいない世界で、美しく昇華された俺の思い出だけを、永く永く味わいながら生きて欲しい。

「……ふふ」
揺蕩う気だるさの中、漏れ出た忍び笑いに、隣で横になっていた男が小さく驚いた。薄暗い妄想に、悪くないなと思う。自分勝手で我侭放題な独裁者には、相応の罰ではないだろうか。
サスケが思い出し笑いなんて珍しいってば、などと言いながら、呑気な独裁者は白い肢体を抱き寄せた。甘く呪われた夢に微睡む頭に、優しいキスが落とされる。
「そんなによかった?」などと的外れな事を言うナルトを鼻で笑うと、少し機嫌を損ねたらしく軽く唇を尖らせた。
何となく愉快な気分で、拾い上げた大きな手を頬にあててみる。まだ少し熱の余韻の残る掌。ほおと満たされた溜息をつくと、戯言にまたひとつ訊いてみた。

「……なあ、お前なんでいつも、訊いてくんの?」
「何が?」
「だから……入れる時、にさ」
大丈夫じゃないって言っても、止める気なんてねえんだろ?
皮肉を込め、口の端を少し歪めて尋ねると、ナルトはきょとんとした顔で動きを止めた。
んんー?と数秒考え、ふにゃりとあのヒトタラシの笑顔を造って言う。

「――そりゃあ、愛ゆえに……だろ?」

……がり、と密やかな音と共に、節くれだった長い指の根元に白い歯がたてられた。
悲鳴をあげたナルトが、慌てて左手を引っ込める。
「いっでぇ……!!ちょ、何すんだよ!?」
やや涙目になりながら捲し立てる男に目を細めながら、サスケは艶然と微笑んだ。潤む瞳が美しい。
思わず怒りを忘れて見蕩れたナルトに、「ナルト、お前長生きしろよ」と低く耳に響く声で囁くと、サスケは印を刻んだ掌を取り上げて灯りに翳した。楕円を連ねた歯列の痕が、綺麗に指を一巡しているのを満足気に確認する。

――ま、今日はこのあたりで勘弁しといてやるか。

じくじくと痛むは、薬指。
きっと儚く消えるであろう赤い鎖のリングは、自分達には相応しい約束に思えた。







【end】
ナルトは年を取れば取るほどいい男になるタイプ。大戦後は超絶モテ期が到来しそう。
でもそういう時に「約束」の出来ない恋人同士というのは、きっととても辛いだろうなあと思ったのでした。

2019年の今になって読み返すと、ひゃあああ…!!となってしまったのですがまあこんな事も考えていたのでしょうがない!このサスケ、書きながら下にひいていたイメージは「紫の上」でした。今の私からは絶対出てこないお話なので、自分のものながら中々新鮮です…。