七月の水蜜桃

「入るぞ」と言う声に慌てて引き下ろしたジッパーに手を掛けたが、時は既に遅かった。元よりこちらの都合なんてアイツが考慮する事なんて殆ど無いのだ。思った通り返事を待つことなく、ぴしりと閉じられていた襖は少年の細く白い指によって、問答無用でからりと開けられる。

目が合った瞬間、言葉に云い表しようもない程のとんでもなく気まずい沈黙が通り抜けた。

見開かれた黒の眼はそのままに、するすると静かに襖は引き戻された。硬直した背中に、嫌な汗が滝となって落ちるのを感じる。
……ええっと、どうしよっか。
取り敢えず、……一旦、しまっとこっか、な?
急速に萎えていく我がムスコを痛ましく思いつつも、ナルトはくつろげていた前を閉じた。まだ廊下にいるらしいチームメイトの気配は、動かないままだ。
すすす…と控えた音で再び襖を開けると、そこには不機嫌と羞恥と不快感と困惑をごった煮にしたような顔の少年が、俯いたまま立ち尽くしていた。赤らんだその頬がやけに可愛くて、うっかり「あ、なんかスイマセン」なんて思う。

「……――ナ~ル~トォォ~~~……!!!」

低く唸る声は怒りと恥じらいで掠れていた。こ、こういう場合の対処法ってどうしたらいいんだろ?よくわからないけどとりあえず一応笑ってみっか……??

「てっめ……何こんなトコでおっ立ててンだ!いっぺん死ね!!」

  * * *

こういう場所ではそういうコトを控えるべきだろう、と頭脳明晰容姿端麗な学年トップの天才ルーキー君は正座させたナルトを前に講じた。風呂上りの暑さが堪えるせ⁂だろう、普段は見かけないタンクトップから出た肩が怒っている。火の国の外れに位置する小さな民宿、都合一瞬間のDランク任務。カカシ率いる第七班は、今日も日中みっちりと土木作業を手伝ってきたところだ。
ハァ、ごもっとも。
おっしゃるとーりでございますと、しょげた金髪頭が項垂れる。

「……だって、男のセーリゲンショーだもん。仕方ないってば」
「ガキのクセに最もらしい言葉で言い訳すンな!てめェにゃ自制心ってモンがないのか、この万年発情ザルが!!」

オマエだってオレと同じガキじゃねーかよと内心で言い返しつつも、ナルトは黙ってしおしおと頭を下げた。タイミングは完璧だと思ったのに、まさかこんな自体に陥るとは。
その時の誤算の原因を言い訳するとしたら、いつもならゆっくりと風呂に入るサスケが団体客で混んだ大浴場を嫌ってすぐに出てきてしまった事とか、夏生まれのクセに汗をかくのが嫌いなそいつが部屋に備え付けられてあった扇風機を酷く恋しく思っていた事とか、覚えたばかりの感覚にまだコントロールが上手くできなかったオレがよりによってアイツとの相部屋の夜に辛抱堪らん状態になってしまってかれこれもう三日目な事とか兎に角色々あるんだけど、結局のところは「まあちょっと若さ故に?」としか言い様がない気がする。
……でもしょうがないじゃんよ、溜まっちゃったんだから。
そうなった原因はオマエにあるんだぜとは、さすがに言えないけど。

「……で?」

わざとらしい咳払いをしながらおもむろにそんな事を言ってきたチームメイトに、ナルトは首を傾げた。で?…って??

「…はい?」
「その……イケた、のかよ?」
「は!?――イエ、まだ…ですが」

斜め下を見ながら喋るサスケがすごく言いにくそうな顔で問い詰めてきたので、思わずこっちも正直に告白してしまった。てかなんでそんな事訊いてくんだよコイツ、せめてもの気遣いのつもりだろうか。お気遣いには大変感謝ではあるけれどその方向性は間違ってんぞ絶対。きっと普段親切心なんて大層なものとは無縁の生活態度しかとってないから、こーゆー時にこんな妙ちきりんな気の回し方しか出来ないんだ。ちったァ円滑な人間関係を育むためのノウハウをコイツも覚えるべきだってばよ。
そんな事をつらつらと思いながらもまだ微妙に帆を張っている股間をチラリと見下ろした。
そりゃあ、まだ、だったけどさ。でもまあ我慢しろってんならどうにか我慢するってばよ、しょうがねェもんな。

「そうか……なら、ちゃんと今、最後までイっとけよ」

煩悩の消化を諦めかけていたところに、仁王立ちの美少年が出し抜けにそんな事を言い放ったから、オレは天地がひっくり返ったかのような衝撃を受けた。
……あれっ、聞き間違いですよね?コイツがこんな事言うなんてありえねェもんな。
あんぐりと口を開けたままで「は?」と聴き返すと、鉄壁のポーカーフェイスの一角がぽろりと崩れ、その整った唇がちょっと躊躇うようにくちばしをつくった。こちらを睨んでいたおっかない両目が、ゆらゆらとシミが散らばった古い壁紙の表面を寄る辺なく漂っている。

「えっと、なんつったの、今?」
「だから、ここで今、抜いてみろって」
「…………はァ?」
「どーやってヤッてんのか、お前の見せてみろってンだ」
「――イ、イヤに決まってんだろーがっ、こんのバカスケがァ!!!」

突拍子もない提案に今度はオレが怒鳴る番だった。
巷では天才だとかエリート一族だとか言われてるけど、コイツは実は結構天然だ。
ベースが箱入りなクセに結構な苦労もしていてその上に妙に潔癖で意固地な性格が重ねられたせいか、時々とんでもなくブッ飛んだ発言や思想をぶちかます。
多分コイツのこういう部分に気が付いているのは、同じチームにいるオレだけだ。
サクラちゃんはコイツのキラキラオーラに目くらましを食らっているので、きっとまだわかってない。担当上忍であるカカシセンセーは、さすがにちょっとは勘づいてるんじゃないかなと思うんだけど。
……にしたっていきなり見せてみろはないんじゃないだろうか。
オレにだって人権っちゅーモンがある。羞恥心だって兼ね備えている。
たとえ相手がどんだけエラソーな高慢ちき野郎だとしてもこんなのってない。プライバシーってやつの尊重を、オレは断固主張すんぞコラ!!

「何でそんな事言うんだってば、オマエ人のなんて見たいのかよ!?」

ひっくり返った声で不服を叫べば、「ちっ」という舌打ちが聴こえてきた。
えっ、ちょっ、……何で、舌打ち?この場面で?オマエやっぱ人としておかしくねェかそれ!?

「だって……気にならないか?自分のヤリ方って、普通なのかなって」

密やかに、甘やかに、やさしく誑かすような言葉に、思わず激昂に立ち上がりかけていた体がぴたりと静止した。
ぶうーん、ぶうーん、と暢気な唸り声をあげて、旋回するプロペラが首を回す。
そいつが意思確認するみたいにオレを見て、ゆっくりとサスケを見た。送られてきた風に、まだ多分に水気の残っている黒い前髪がめくれる。

「……ヤリ方?」
「そう。ヤリ方。……あれって誰かに教えてもらった訳でも、ないだろ?」

……な、なるほど。そういえばそうだな。
まことしやかに述べられた事実確認に、オレは思わず頷いた。
本能のままに手を動かしてきたけど、確かにこれって普通の動きなんだろうか。
もしかしてちょっと、変?だったり?しない…よな?
自分の性癖に疑念を抱く事なんて一度もなかったけれど、そう言われてみたらあれがノーマルでスタンダードでインターナショナルなヤリ方だなんて誰からも教えられてない。これまで自分の好みのままに動かしてはツツガナク達してきた我がムスコだけれど、これって本当のところはどうなんだろう。イワユル『普通』の方法なのだろうか。もしそうでなかったとしたら、自分はちょっと変わった嗜好の持ち主だという事になる……よな?てかそれがいつか女の子とイザって時にでも初めて発覚しちまった日には、オレってばものすっげェ恥ずかしい目に合うんじゃねェのもしかして。そのまませせら笑われるもしくは罵倒されるあるいはドン引きされてオレの心もカラダもムスコも再起不能に陥ってしまったらそりゃもう大変な事になるんじゃないだろうか。
唐突な問題提起にフリーズしつつも、オレの頭にはもうひとつ、重要な憶測が浮かんできた。
ってかコイツも今オレが思ったのと同じような事考えたからこんな提案してきてるって事なんだよな?
うわ……アホだな。男だな。なんか急にコイツに親近感湧いてきちゃったぞオレってば。

「……た、たしかに。誰からも教わったわけじゃないってば……」
「どこで知った?」
「聞き齧り、とか?話の中で聞いたのを、こう、あとは自分なりにアレンジというか」
「……そうか……じゃあ、ほぼ自己流、という事だよな?」

自己流!?そこにオレ流みたいなの付ける必要あんの!!?
ツッコミどころは満載な気がしたけれど、不安がムクムクと膨らんできたのも確かだった。珍しく真剣な表情のサスケが目に入る。アイツも結構必死なんだろう。もしかしたらオレよりもバカ話をする相手のいないコイツは、実際のところはオレ以上にこの件に関して切実に不安なのかもしれない。そう思ったらなんだか自分がアイツの『特別』になった気がして、こんな絶対にオカシイ場面だというのに妙な高揚感が襲ってきた。
あのサスケが、みっともなくてアホな自分を、オレに晒している。……オレだけに、打ち明けている。
……あれ?なんか、結構、うれしい?……かもしれない。

「…………絶っっ対、笑ったりしないって、約束するか?」

睨みあげた目で低く確かめると、人形みたいに整った顔が大真面目にこくりと頷いた。それを見届けると、思い切るようにひとつ、大きく息をはく。
――じゃあ、する。
呟くと、ナルトは再びズボンのジッパーに指を掛けた。じじじ…というくぐもった金気の音が、張り付いていた躊躇いを少しずつ剥がし落としていく。
徐々に開かれていく秘密に、立ったまま金髪頭を見下ろしていたサスケが、僅かににじり寄った足でゆっくりと屈み込むのを感じた。
……ああ、暑い。なんて暑いんだろう、この部屋は。



そもそもどうしてオレがこんな辛抱たまらんな状態に陥ったのかといえば、コトの起こりは三日前に遡る。
その日依頼内容である土木作業は監視と作業補助に分かれていたので、自然と女の子であるサクラちゃんと上司であるカカシセンセーが監視に回り、若さで勝負なオレ達が作業に就く事になった。真夏直前の陽気は信じられない位大量の汗をオレ達に噴出させ、午前中だけで二枚のシャツは汗でぐしょぐしょになってしまった。塩気でシャツがベタつくのを嫌ったサスケは、休憩の間にそれを脱いで澄んだ川の水で洗っていた。それを見て(あ、なるほど)と思ったオレもアイツを真似して上半身裸になり、ハーフパンツ一丁で自前の紺のシャツを絞るサスケの隣で、自分のシャツを濯いでいたのだ。

『くそ……あっちィな……』

隣でこぼされた悪態が前よりも一段と低くなっているのを感じて、オレは思わず顔を上げた。
変声期を越えたばかりのオレ達の喉はまだまだ不安定で、時折掠れたりまだ変に子供じみた高音が混じる時がある。未だに甲高さが耳につくオレの声とは違って、サスケの喉はもう随分と安定してきているようだった。

『オマエってば、暑いの苦手だよな』

火遁使いのクセにさ、と思って言った科白だったのだけれど、彼は違う風に取ったらしかった。
なんだよ、お前まで夏生まれは暑さに強いとか、いい加減な迷信言うんじゃねェだろな。
そう言って顎を伝って落ちそうになる汗を雑に拭った横顔を、ぽかんと意表を突かれたまま見詰める。

『……サスケって、夏生まれだったんだ?』
『は?……ああ、ま、どうでもいいだろそんなの』

その肌の白さから勝手に彼を冬生まれだと思い込んでいたオレは、意外な事実にただ驚いた。
日を浴びて光る背中はどこまでもなめらかで、やはりそこから彷彿とされるのはひんやりと広がる冬の雪原だ。繊細な骨格がその雪原にかすかな陰影をつくり、そこに潜むように何粒かの汗の玉が浮かんでいるのを発見すると、オレの下腹には俄かにぞわぞわした予兆が芽生えた。冷血に見えるのは表面だけで、コイツの中身は今も確かに熱く脈打っているのだ。その事実は、スカシた外皮の一枚下に打てば響くような熱さを併せ持つ彼そのものを表しているようだった。暑さを逃す犬のように半開きになっている口許から、赤い内側が覗いて見える。
きっと、あの中は、途方もなく熱いのだろう。
……それに、蕩けそうなほどやわらかいに違いない。

『あ、おい、サクラのやつ中々気の利いた事してったぞ』

アイツには珍しい歓声じみた声に、溶けかかった頭が元に戻された。
言われて見た先に、川の中程に突き出た小岩に紐で括りつけられた竹籠を見つける。その日の依頼内容には山賊からの警護も含まれていたため、現場に忍がいなくなる瞬間ができるのはまずいという理由でオレ達は交代で休憩を取っていたのだった。そういえばさっき、交代する際にカカシ先生から「依頼主から差し入れがあったから、お前達もありがたくいただきなさいね」と言われていたのを思い出す。澄んだせせらぎに沈めるように置かれた竹籠の中身は聞かされていなかったが、取り敢えず涼に繋がるものであることには違いなさそうだった。余程暑さが堪えているのだろう、ひょいひょいと膝まで水に浸かりながら籠を取りに行く痩せた後ろ姿が、いつになくはしゃいでいるように見える。

『さっすがサクラちゃん!んで、中身は!?』

籠を手に川岸に戻ってきたサスケを待って、ワクワクしながら二人して籠を覗き込むと、その反応は見事に両端に別れた。「わァ、桃だってばよ!」という声と、「なんだ…桃かよ」という声だ。

『なんで?オマエ桃嫌いなの?』
『……甘いだろーが、それ』
『ほんっと不便な味覚してんなァ』
『るせェ、ほっとけよ』

急に沈んでしまったサスケを置いたまま、オレは竹籠の中に手を差し伸べた。握ったら潰れそうな程熟れたそれを傷ませないよう、慎重にひとつ取り出す。ビロードみたいな産毛の生えた表面を爪先でつぷりと突き刺すと、その皮はつるりと簡単に剥けそうだった。残した爪痕から薄紅の表皮を引っ張ると、ぴいーっ…と筋になってその肌色の中身が現れる。

『いい匂い!これ絶対甘いぜ!!』
『……そーか、そりゃよかったな』

流れる清水に足を突っ込んで座り込んだサスケに声を掛けたが、アイツはもうすっかり依頼主からの粋な計らいにもサクラちゃんのファインプレーにも興味はないようだった。ぼおっとした顔で日差しを弾いている水面を眺めている隣に、果物を持つ手に変な力が入ってしまわないよう気をつけながらオレも座る。剥き出しになった部分にかぶりつくと、ぶしゅりと果肉が弾けて口の中に広がった。瑞々しい芳香が鼻を抜ける。ああ、これ、多分すごくいい桃だ。これが食べられないだなんて、コイツは味覚に関しては本当に不憫なヤツだ。

『オマエさ、さっき夏生まれって言ってたろ?いつなの?』
『あー…七月』
『今月じゃんか!何日?』
『……忘れた』
『そんなわけあるかってば、自分の誕生日忘れるなんて』
『どうでもいい事だから、忘れちまった。誕生日なんて、月だけ覚えてりゃ充分だろ』

どこまで本気なのかわからない言葉にその横顔を伺うと、驚いたことにその遠のいた瞳は、そんなありえないような事をどこまでも本気で言っているように見えた。コイツってば自分の誕生日が、好きじゃないのだろうか。そういやさっき「お前までそんな迷信言うのか」って言ったよな?お前までって事は、以前にも他の誰かにそんな事を言われた時があったのだろうか。誰かって……誰に?
色々訊いてみたい事はあるような気がしたが、虚空を漂うその目のあまりの静かさに、気軽に問いかけるのは憚られた。だけど何となく会話を無くすのは嫌で、オレはダメ元な提案をする。

『……ナァ、桃、ウマイってばよ?マジで』

ひとくちだけでも、食ってみろって。
そう言って手にしていた食べかけの桃をサスケの口の前に差し出すと、その柳眉が一瞬物凄く嫌そうにしかめられた。口を開けようとしない彼に、「……甘いけど、全然くどくないから」ともうひと押しする。その言葉が効いたのか、やはり振り切れない暑気に負けたのか。おそるおそるといった感じで、薄い唇がゆっくりと広げられた。めくれた赤から、つやつやした貝殻みたいな前歯が遠慮がちに覗く。

(――わ、ぁ……)

かぷり、とその果実に歯が立てられた瞬間、込み上げた感動で手にした桃を握り潰しそうになった。
少しだけ伏せられた睫毛。伸ばした首の白さ。
果肉よりもはるかにやわらかそうな唇が、糖でベタつく果汁でしっとりと濡れていた。
数回噛んだだけですぐに咀嚼されるそれが、細い喉をするりと落ちていくのがわかる。
溢れた果汁を拭うために、薄い手の甲が口許へ運ばれた。
ぐい、と擦られた唇が、腫れたような赤に染まる。「くっそ…甘ェな…」と毒づく声が低い。
白昼夢でも見たかのような気分で、少しだけ指が食い込んでしまった桃を見下ろした。新たに付けられた歯型は、オレの囓った箇所の上に、丁寧に重ねられている。
――胸が、ざわざわする。なんだかとにかく、腹の底が切なかった。



「――く、あっ……ふ…ふ、っ…」
我慢しきれなくなってきた吐息と共に、ぬめり出した先端がいやらしい水音を増した。
果てが近いのを知った右手が動きを早めていく。
輪にした指でむき出しになった亀頭を扱けば、背中にピリピリとした快感が何度も通り抜けた。抑えられなくなってきた吐息が重さを増して、それに合わせるように扱く手の動きが激しくなっていく。
靄掛かった視界をそっと開いてみると、屈伸するみたいにしてしゃがみ込むサスケが映りこんだ。
かたちのいい膝小僧で顔の下半分は隠されている。現されているのはその眼差しだけなのに、そこから伝わってくる真剣さがただならない。
まっくろな双眸が熱を上げていく自分を見てる。欲でベタベタになった中心を見てる。
オレを……見てる。
その光景が余りにもセンセーショナルな気がして、とてもじゃないけどまともに目なんて開けていられなかった。ぎゅっと絞った瞼の裏にチカチカと点滅しだした光が、開放の瞬間までもう間もない事を知らせる。
昼間また見た、汗で濡れたなめらかな背中が脳裏をよぎった。緩いズボンを引っ掛ける華奢な腰骨。甘い果汁に濡れて光る赤い唇を、それを拭う手の甲を思い出した。
ああアイツなんであんなにしろいんだ。なんでサクラちゃんよりも色っぽいんだ。なんでいちいち唇に付いた汁を味わう度にエロくさい舌出しやがんだ。細っこいカラダしやがって、どうしてアイツの事考えるとオレの真ん中はこんなに熱くなっちまうんだ。

「――……スケ……」

抑えきれなかった溜息じみたうわごとに、見つめていた黒がぎょっと見開かれた気配がした。小さく息を飲んだだけの幽かな彼の息遣いでも、拾えばそれだけでもうどうしようもなく胸が苦しくなる。弾け飛びそうな意識を必死で抑えながら、急ピッチで力任せに先端を擦り上げた。

「おい、今」
「…うァッ!?あ、ああァ…っ!!」

出し抜けに掛けられた彼の声に鼓膜を刺激されると、白濁は呆気なく放たれた。
慌てていつでもどうぞな状態でスタンバイさせていたティッシュでとろりとした粘液を受け止めると、余韻に震える我が子を宥めるように手のひらで包む。達成感と疲労感で温められた深い息を吐いたオレを見て、言葉を失っていた様子のサスケがおもむろに声を出した。


「お前……なんてキモいイキ方してやがんだ……」

キ、
キモい………………。
…………スイマセン、やっぱコイツいっぺん殺してもいいですか?
確かに笑いはしなかったがおそろしく困惑した顔で低評価な批評を呟いたサスケに、吐精の余韻を上回る殺意が込み上げた。
なんだよそれ、なんだよそれ!見せろっつーから恥を忍んで披露したってのに、言うに事欠いてキモいとは!?

「――何だよその言い方!バカ!嫌い!!ヒドすぎンだろ!!」
「……なんで俺の名前なんて呼んでんだよ……」
「ちがっ…ちがァァう!!あれは、……そう!スケスケって言ったんだ!そういうパンツ穿いてる女の子想像してたの!!」
「……スケスケぱんつ」
「そーだってばよ、スケスケでヒラヒラでなんかもう全部丸見えのミラクルでワンダホーなパンツなんだってば!!」

ハァハァと息を切らして不穏な疑惑を全力で否定すれば、しゃがんだままのサスケは「へー…」と複雑そうな顔で返事をした。な、納得いかないですかね?そうですかね?それともスケスケぱんつについて思いを巡らせているのでしょうか。……あのう、そのう、それはそれでなんだかごめんなさい。
その後の会話が思いつかなくてお互い痛々しい沈黙を共有していると、おもむろにサスケが膝を伸ばして立ち上がった。え?と思ってその顔を見上げると、視線を逸らした彼が「…じゃあな」と言う。

「ご苦労だった、ナルト。風呂行ってこい」
「ちょっ…オマッどこ行くんだってば!?」
「……便所だ」
「――待て!!なんだそれ、見せんのってオレだけかよ!?」
「ったりめーだ、誰がお前なんかにそんなの見せるか!」
「きったねー!!」
「…ンだと!?オレはハナっからそんな約束した覚えはねェぞ!」

身勝手な言い分を投げ捨てて立ち去ろうとするサスケに、ナルトは無性に腹が立ってきた。上から目線の端麗な横顔をぎゅっと睨みつけると、立ち位置を利用して目の前で立つ2本の細い足を広げた腕で一気に抱え込む。意表を突かれたのだろう、かくんと膝が折れて、そのままサスケが後ろ向きにひっくり返った。ゴツ、という後頭部を打つ鈍い音が床に響く。
「~~~ってェ…!!テッメ、ナルト!っざけんなよ!!」というドスの利いた威嚇があがったが、それを無視してナルトはそのひらべったい腹の上に跨った。
へへーん、どんなもんだい!これで形勢逆転だってばよ!!

「……クソが。降りろ、ドべ」
「なんだよ、タダ見はよくねえよなァ、サスケちゃんよォ」

見下ろした黒は物騒な光できらきらと輝いていた。濡れ羽色の髪が床に散らばる。
……っとに、なんて綺麗な生き物なんだ、コイツ。
いじめたい。泣かしたい。……なのに、甘やかしたい。優しく、したい。
訳のわからない切なさに胸を打ち鳴らしながら、ナルトはこくりと喉を鳴らした。矛盾だらけの欲望を一緒くたに飲み込んで、するすると後ろに手を伸ばす。緩いハーフパンツの下にあるアンダーのゴムに指先を潜り込ませると、びくりとその骨ばった肩が揺れるのを見た。青い体温が籠る下着の中を手のひらで彷徨うと、その指先は先にある熱の塊にすぐに辿り着く。
……ほんの少し、勃ちかけている。気が付けば、ナルトは顔が緩むのを抑えきれなかった。
うれしい。うれしい。なんだ、オマエだって……じゃないか。

掬うように手のひらで包めば、それはいじらしくもふる、と揺れた。「バッ…よせ!やめろ!!」と呻くサスケの声を放置したままでやわやわと甘やかすように揉むと、その質量が一気に増してくる。
腹の上から降りるのはまだ逃げられてしまいそうで心もとなかったので、ナルトはそのままくるりと体ごと回れ右をして、前をくつろげたハーフパンツを下着ごとずるりと下に引き下ろした。ぷる、と飛び出した彼のものが、やけに素直でかわいらしく見える。

「わー…サスケのって、なんかここも白――ぐっほォ!!」

不躾な品評を述べようとした途端、背後から組んだ両手の握りこぶしが思い切り脳天に打ち落とされてきた。
げェ……かなり痛い。
涙目で後ろを振り返ると、瞳を潤ませたサスケが強烈におっかない視線をこちらに向けているところだった。なんだよオマエ、自分だってこんなんなっちゃってるくせによ。

「……調子のってんじゃねェぞ、ドべが。軽々しく触んじゃねェ」

言ってる言葉は威圧的だったけれど、それが上気した頬と潤んだ瞳から出されたものだと知ればたいして怖くはなくなった。握りしめたこぶしが細かく震えているのは、多分怒りの為だけではないだろう。恥じらいに揺れる長い睫毛が、桃色に染まりつつある頬に淡い影を落とす。
あれ?もしかして、かわいい…んじゃないの?コイツ。
それも、結構……いや、かなり。

「……オレのヤリ方って、どーだった?変だった?」
「…………知るか」
「サスケのヤリ方は?いつもどんなん??」
「…ウッゼ…もういいから、黙れ」
「なんだよ、人に言えないような変態ちっくな事してんのかってば?」
「……お前、マジで殺すぞ。降りろ!」

背中越しに低い声が出される度に、跨った腹に響いて軽く起き上がったままの彼自身がゆらゆらと揺れるのがおそろしく扇情的だった。
もう一度、指を絡める。…は、とサスケが息を飲むのがわかった。
まだ少しだけ包まれている先っぽを、輪っかにした指でくいっとむき出しにする。

「……ぅ、わ……ァ、テメ、やめろっつってンだろが……!」
「やめねー……お前のも、見せろってば」

しゅ、とひとつ手のひらを滑らすと、にわかに焦りを増した様子のサスケが上擦った声をあげた。
あ、やっぱココだよな。ココが気持ちいいんだよな。
自分と同じポイントで悦ぶサスケがなんだか愛おしくて、ナルトは今度は迷いのない動きでリズミカルに手を動かし出した。コイツもオレも、同じように気持ちよくなれるんだ。同じ動きでソコにいけるんだ。
押し出されるように溢れてきた透明な雫を絡ませながら、強弱を付けつつナルトの右手は動き続けた。淫靡な水音が、気怠く暑い室内に漂う。
間抜けな扇風機のモーター音の合間に、サスケの熱っぽい吐息が溶けていく。
徐々にせわしなくなっていく呼吸に乗り上げたままの彼の腹部が苦しげに大きく上下するのを見て、ナルトは慎重に自分の尻を除けた。広げた腿の内側に小さく身体を縮こませて座り、再び屹立した彼のものに手を伸ばしてみたが、既にサスケには抵抗する余裕はないらしい。いつの間にか力無く落ちていた白い手を拾い上げ、濡れそぼった彼自身にその手を沿わせた。

「……ほら、見せてみろって。自分でしてみ?」
「くっそ…いや、だ…」

噛み締めた唇が、やわらかな皺を刻んだ。きちんとした歯列がきゅうと赤に食い込む。
ああ、あの唇。あれきっと、桃なんかよりはるかに甘いんだぜ。
かつて不慮の事故で一度だけぶつかった事があるだけで、それをゆっくりと味わったことなんて無いくせに、ナルトは何故だかそれを確信していた。動かすのを躊躇っているサスケの手を自らの手のひらで上から包んで、傀儡遊びでもするように動きを同調させる。
短く切れる息遣いまでもが重なってくると、合わせた手の動きがどちらのものなのか、境界線さえもあやふやになってくるようだった。「んっ…、ん…」と時折サスケが感に耐えないといった呻きを漏らす。

「……サスケ」
「――は、ぁっ……」
「サスケ、気持ちイイ?」
「…っせ…」
「気持ちイイよな……こんなんなっちゃってんだし」
「誰の……せい、だ…ッ」
「なに、オレのヤリ方、そんなに気に入った?」
「――テメ…死ね…ッ!」
「ねェ、オレの……好き?」
「っ、ざけ……!」
「――これ……好き……?」

座るナルトを間に入れて、素直に伸ばされた脚がひくひくと痙攣するかのように突っ張っていた。
逃げきれない波が絶え間なく襲ってきているのだろう。無垢なつま先が時々耐えるようにきゅんと丸められるのが、ひどくいたいけで甘苦しい。
せめて声だけは漏らすまいと頑張っている様子のサスケは、先程からずっと唇を噛み締めたままだ。赤さを増した唇は立てられた歯によって色が変わり、そこだけ白っぽく変色している。

「な、声」
「……ふ、…ぅ、んっ……!
「声、我慢すんなってば。口んとこ、噛むなよ」
「ほっ……とけ…ッ」
「唇、切れちまうって」
「……ん、んっ……」
「……血、出ちまうってば」
「ん、ん、……んん――っ……!!」

指摘されて、益々強情に食いしばったせいだろう。ぷつり、と真珠のような尖りが、淫欲に染まる薄皮を突き破った。
驚く程純度の高い赤が、ゆっくりと溢れ出す。
――ああ、こぼれる。
白い頬を染め上げて快楽に乱されているサスケに陶酔しながら、ナルトは思った。
なんて綺麗な命、いとおしい滴りなんだろう。
彼の中にあるもの、その全てを。ひとしずくだって、損ないたくない。

チュウ、と寄せた唇で真紅の源泉を吸い取った瞬間、「う、あッ……!?」と驚いたような少年の声があがった。
急に膨らみを増した中心部に吐精の兆しをみて、ナルトは重ねていた手を離すとその天辺を優しく包み込む。くびれから絞り上げるようにして先を撫で回してやると、びくびくと彼が震え、手のひらの中を叩く熱い飛沫を感じた。
とろとろと手の内に溜まった体液さえも惜しい気がしてそこに舌を伸ばそうとしたら、それは再び脳天に打ち下ろされた拳によって容赦なく阻止された。整わない息のままに「――ッカじゃねェのかお前は!!ンなキショいことすんな!」と叫ぶサスケの顔が、耳まで真っ赤になっている。
……うわ。やっぱ、こいつ、かわいい。
どうしよう…………かわいい。

「……クソ……折角風呂入ったばっかなのに、また汗かいちまったじゃねェか……」

どぎまぎしながら仰向けのままの平たい胸を見下ろしていると、片方の手のひらでその表情を隠したサスケがうんざりしたように言った。座っているナルトの服の端をぞんざいに掴んで身体を起こすと、仕舞われないままでリュックの脇に置かれていた入浴セットを引き寄せる。

「なにいつまでもボケた面してンだ、とっとと支度しろよ」
「――へ?」

要領を得ないままで首を傾げたナルトに「チッ」と舌打ちが落とされた。
風呂だ、風呂。お前も入んだろ。
そう言って立ち上がった白い首筋に、少し伸びた襟足が、しっとりと濡れて張り付いている。
(えーと……これってば、一緒に入ろうぜって意味だよな……?)
馴れ合うのを嫌がるサスケが、こうして入浴に誘ってくれたのは初めてだった。嘘みたいだけれど、彼はそんなに怒っていないらしい。思いもよらなかった誘いに戸惑う反面、否応無しに浮き足立つ心が抑えきれない。
え?急に、なんで?もう全部見せちゃったんだから、今更…って事?

(汗、びっしょりだ……)

背中で色を変えている黒いタンクトップを見つけると、ナルトの胸には奇妙な満足感が湧いてきた。
……この汗をコイツにかかせたのは、オレだ。そう思ったら、またあの「ぞわぞわ」がやってきそうな予感がした。じわじわと熱を集めだそうとする中心を、思わず手で抑える。

ヤッベェ……この後、コイツと一緒に風呂入んのに。
またこんなんになってるなんて知られたら、今度こそ脳天かち割られるかもしんねェ……。

危うい自分とかわいいムスコを戒めるべく、ありったけの自制心を掻き集めて、ナルトはがばりと立ち上がった。やはりこちらの都合なんて頓着しない様子の彼は、さっさと大浴場に向かって廊下を歩き出している。焦る頭でリュックサックを掻き回しながら、その湿った背中に「ちょ、待てって!」と声を投げかける。
ひたすら首を回し続けている扇風機のスイッチを、駆け出そうとした足先でパチンと消した。
慌てて追いかけた彼のうなじからは、極上の水蜜桃のような甘く瑞々しいにおいがした。






【end】
ナルサス100万回任務先で相部屋押し込められて欲しい……